DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が、インフレに関するバイデン大統領の発言にツッコミを入れている。
インフレは就任前からあった?
先日発表された強い雇用統計にバイデン氏が記者会見で喜んだことは先日報じた通りである。
この記事で書いた通り、バイデン氏の雇用統計に対する認識は間違っているのだが、ガンドラック氏がツッコミを入れているのはその後の質疑応答の部分である。ガンドラック氏は次のようにツイートしている。
ジョー・バイデン氏は今日「わたしはインフレを受け継いだ」と発言した。
バイデン氏が正確には何を言ったかと言えば、記者からインフレを引き起こした責任を感じるかと聞かれ、次のように発言した。
わたしが物価高騰を引き起こしたことへの非難を受け止めるか? ノーだ。
何故ならば、わたしが就任した時にはインフレは既に起こっていたからだ。そうだろう?
そうだろう? そうだろうか。読者はどう思うだろうか。ガンドラック氏はこう指摘している。
事実はこうだ。
2020年12月のCPI、コアCPI、PCE、コアPCE
1.4%、1.6%、1.3%、1.5%
現在のCPI、コアCPI、PCE、コアPCE
6.5%、5.7%、5.0%、4.4%
「オイ、どういうことだよ」と言ってやりたいが、それにしても彼の嘘は大きすぎる。
インフレの原因はバイデン政権か
記者会見で記者がインフレについてロシアではなくバイデン氏を責めていることから分かるように、アメリカ人は既にインフレがウクライナ情勢のせいではないことを分かっている。
そして本当の原因はコロナ後に行われた莫大な現金給付である。
さて、では原因は「バイデン政権による」現金給付なのだろうか。もう少し状況を厳密に見るために、アメリカのインフレ率のチャートにアメリカ人の可処分所得を並べて見てみよう。
可処分所得が急激に上がっている部分が現金給付である。
最初の現金給付はコロナ第1波の頃にトランプ政権によって行われたものだが、これは(長期的な功罪は別として)ロックダウンによるデフレを止めたことが分かる。インフレは引き起こしていない。
その後トランプ政権は退任直前にも現金給付を行なっているが、それは2021年1月の可処分所得上昇をもたらしており、それはバイデン氏のせいではない。
だがその横の大きな山はバイデン氏が就任直後に行なった現金給付であり、この山はコロナ直後の現金給付よりも大きく、しかもこの頃にはアメリカ経済は回復していたので、行われた理由がまったく分からない。
そしてチャートを見れば明らかな通り、インフレ率はこれら2021年1月と3月の現金給付を受けて高騰している。
インフレは誰のせいか
もちろんインフレの原因はそれだけではない。日本を含めて世界中で行われた現金給付と金融緩和で溢れた資金がエネルギー市場や農作物などのコモディティ市場に流れ込み、原材料の高騰をもたらしたが、当時も報じたようにそれは2020年後半には既に起こっていた。
だが2021年から始まったアメリカ国内の物価高騰に関して言えば、1月(トランプ政権)と3月(バイデン政権)の可処分所得上昇が原因だと言うべきだろう。
ではどちらの責任がより重いのか? 現金給付の大きさで比べてみるためにチャートの山をもう一度比べてみよう。
7割方バイデン氏だと言うことが出来るだろう。
結論
だがこの記事で筆者が言いたいのは、バイデン氏が責任を逃れたということではない。数ヶ月前に亡くなった同僚を探し求めてパーティー会場を彷徨うバイデン氏に、2年前のことを厳密に思い出せと要求するのはあまりに酷だろう。
ここで言いたいのは日本人とアメリカ人のインフレの原因に関する理解の差である。日本では政治家が「ウクライナ情勢による物価高騰」と意味不明なことを供述したとしても、記者も国民も誰も疑問に思わないだろう。
だがアメリカのインフレ率とか処分所得を見ても、2020年から上昇が始まっていた原油価格を見ても、2021年から上昇が始まっていた日本の生産者物価指数を見ても、2022年末から始まったウクライナ情勢がインフレの原因であるという供述はまったく理解不能である。
一方でアメリカではバイデン氏のこうした欺瞞は完全に見抜かれている。経済指標も確認せずに経済の記事を書く日本の記者、経済指標も確認せずにSNSでインフレについて語る日本人、どちらも同レベルなのだが、こういう人々は永遠にインフレから逃れられないだろう。