マイナード氏、中央銀行の経済予想の矛盾を指摘

日銀の決定が間に挟まったが、アメリカの金利に話を戻そう。Guggenheim Partnersのスコット・マイナード氏がBloombergのインタビューで来年以降のアメリカ経済と金融政策について語っている。

インフレ減速と利上げ

アメリカのインフレ率は急減速を始めているが、Fed(連邦準備制度)は利上げを強行するとの立場を崩していない。

それが12月のFOMC会合の結果だった。

そこまでは既に報じていることだが、今回はこの時に発表されたFedの2023年の経済予想について論じてゆきたい。

かなり無理のあるFedの経済予想

利上げを実行している(せざるを得なくなった)とはいえ、2021年に著名投資家がこぞってインフレの脅威を警告していたなか、「インフレは一時的」と言い続けたFedの予想には今でも変わらずかなりの無理が生じている。

例えばFedによる2023年のアメリカの実質GDP成長率予想である。マイナード氏は次のように述べている。

(Fedの予想している)0.5%の経済成長は多分過度な楽観だろう。

何故か。それはFedの予想している他の数値と一緒にこの予想を並べてみれば分かる。マイナード氏はこう続ける。

これから金融政策がどれだけ引き締め的になるかということについて彼らが言ったのは、政策金利が来年の末までに5.1%まで上がり、一方でインフレ率は3.1%になるということだ。

これは、何と言うか、かなり引き締め的だ。

現在7%台のインフレ率が3.1%まで下がると予想しながら、政策金利の方は5.1%まで上げると言っているのである。

少しでも経済の知識がある人が読めば、この時点でFedの予想は絶対に実現しないということが分かる。現在の政策金利は4.25%だが、それでも十分引き締め的だから今インフレ率が急落しているのである。

そこからインフレ率が3.1%まで下がった時に更に政策金利を上げるというのがFedが自分で発表している予想である。それは無理である。気の利いた記者がいて、パウエル議長に記者会見の場で聞いてみれば、流石の彼もそれを認めざるを得なくなるだろう。

2023年の経済予想

だから実際にはそれは起こらない。実際にどうなるかと言えば、インフレが収まらず政策金利が上がるか、インフレが収まって政策金利はむしろ下がるか、少なくともそのどちらかであり、インフレが収まって金利が上がるというシナリオはない。それは有り得ない。

ちなみに筆者はインフレ減速が継続し、Fedが政策金利の見通しを下方修正すると予想しており、今後の政策金利の見通しを織り込んで推移する2年物国債の金利低下に賭けている。(短期債のトレードは当然レバレッジを掛けている。)

マイナード氏はどうか? 彼もジェフリー・ガンドラック氏とともにインフレ減速前から経済に弱気だった論者の1人であり、実体経済については弱気予想を継続しているようだ。彼は次のように述べている。

われわれの推計によれば、インフレを抑制するためにどれだけの犠牲が必要かと言えば、失業率は恐らく今後2年ほどで2%上昇ほど上昇することになるだろう。

アメリカの失業率は現在3.7%である。これは意図的なインフレによって人工的に押し下げられた失業率なので、インフレが終わると必然的に上がってゆく(つまり人々が失業してゆく)ことになる。詳しくは経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の議論を参考にしてもらいたい。

実際、1970年代の物価高騰では、当時のポール・ボルカー議長がインフレが本当に収まるまで引き締めを行なった結果、大量の失業者から悲鳴が上がった。

愚かな政治家とその盲目の支持者たちが引き起こしたインフレの後始末とはそういうことである。

結論

ということで、2023年のアメリカ経済は酷いことになる。利上げが行われた日本も同じようになるだろう。

経済見通しがこれほど酷いにもかかわらず、パウエル議長がタカ派姿勢を崩さないのは何故か。筆者も以前説明したが、マイナード氏はこう言っている。

彼らがかなりタカ派的な姿勢を取らなければならなかったことは元々分かっていた。そうしなければならなかった理由は、直近6週間で金融市場の状況がかなり劇的に緩まったからだ。

株価はかなり上がり、金利は大きく下がった。Fedはそれに介入しなければならないと感じたのだろう。経済が勢いを取り戻しインフレの問題が再発するのを避けるためだ。

市場がインフレ減速と利下げを予想して長期金利が下がってしまえば、それ自体(低金利)がインフレ再発の原因となってしまう。

だからパウエル氏はそう言わざるを得ない。だが2023年の政策金利は彼の言う通りにはならない。投資家は背景を読まなければならないのである。