ここのところ原油価格が上昇しているが、それが長期的に続く可能性は低い。原油の供給の長期動向については以前から何も変わっておらず、変わったのは一度下がった原油価格だけであり、価格下落による一時的な供給減が、価格回復後も長期的に続くと考えるのは不合理だろう。
上記はアメリカのWTI原油価格の推移を示すチャートである。30ドルからの反発で短期的には結構上がったように見えるが、このように中長期で見るとそれほど上がってもいない。このようにボラティリティの高い相場では、通常の値動きの範囲内である。
では原油価格はどの程度のレンジで推移するのか? 下落していた頃には下値を論じたのだから、この記事では上値を中心に話をしよう。
原油の供給
先ず考えるべきは、誰も減産する意志がなく、誰も業界内の競争からドロップアウトしていないということである。先ず、OPECがドーハ産油国会合で減産どころか増産凍結の合意にさえ失敗したことは報じた通りである。
では何故原油価格が上がっているのか? 現在の原油高は、主にアメリカにおける原油生産量が徐々に減少していることによる。シェール企業が原油安に耐えられず、産油を諦め始めているのではないかという推測から原油価格が反発しているのである。
ではアメリカにおける原油産出量はどうなっているのか? 以下がそのグラフである。
確かに原油価格の下落とともに下がっている。ここまでは当たり前である。しかしその減少量はどうか? EIA(米国エネルギー情報局)の最新データによれば、産出量は4月22日の時点で894万バレルとなっており、2015年のピーク時の960万バレルから7%の減少である。これだけ原油価格が下がったにもかかわらず、たったの7%なのである。
しかもこれは米国だけの数字であり、サウジアラビアやロシアなどの動向は上記の書いた通り、そして経済制裁が解かれたばかりのイランは増産に取り組んでいる。
このような状況が30ドルから46ドルへの原油価格の反発を正当化するだろうか? しかもアメリカのシェール産業は死んでいない。シェール大手のほとんどは数年を生き延びられる程度の資金を持っており、一番財政の危ういChesapeake Energy (NYSE:CHK; Google Finance)でさえ2016年を生き延びてしまうだろうことは、シェール企業の決算を分析した以下の記事に書いた。
したがって、原油価格の回復が続くのであれば、シェール企業はいずれ増産を再開するだろう。破綻もせず油田が干からびたわけでもないのだから当然である。5月には今年の第1四半期の決算が発表されるが、それも報じるつもりである。
原油価格の天井
では原油価格の上限は何処にあるのだろうか? 価格の見通しについては以前に書いた予想記事の頃から何も変わっていない。
この記事では、世界的な原油の供給や産油コストを考えた場合、上限は60ドルになるだろうと分析した。よって50ドル台になれば空売りを始めることが出来、40ドル台ではコールオプションの売り(価格が上がらなければ横ばいでも利益となるトレード)が出来ることも書いた通りである。
したがって個人的には、現状ではコールの売りを開始している。何処まで上がるかは、供給過剰が変わっていないことに市場がいつ気付くかという問題だが、もし50ドル半ばまで上がることがあれば完全な売り場であり、ようやく金以外にそこそこの規模のポジションを取る機会に恵まれると予想している。
読者には周知の通り、株式市場でのポジションを手仕舞って以来、金相場以外では大きなポジションを取っていない。今年はそれでも十分だと思っているが、より多くの機会があることに越したことはない。空売りの機会を待とう。