Fed(連邦準備制度)のFOMC会合を控え、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が一部の期待しているFedのハト派転換に警鐘を鳴らしている。
今後の利上げ
11月2日に発表されるFOMC会合の結果に関する市場の織り込みについては前回の記事に書いておいた。
この記事の通り、市場の織り込むメインシナリオは0.75%の利上げであり、サマーズ氏も次のように言っている。
今回の会合で0.75%の利上げが行われても誰も驚かないだろう。わたしもそれを予想している。
今回の会合を注視している人はむしろ次回会合やその後に関するシグナルに注目しているだろう。
特に問題となっているのは12月の会合が0.75%利上げか0.5%利上げかということである。その発端は何人かのFed当局者が利上げの減速を示唆したことにある。
例えばサンフランシスコ連銀総裁のデイリー氏は10月半ばに次のように言っている。
もう一度(訳注:11月に)0.75%の利上げが行われるのがふさわしいだろうし、市場もそれを織り込んでいる。
だが永遠に0.75%だとは思わないことをお薦めしたい。
また、ウォラー理事も次のように言っていた。
次の会合では引き締めのペースについての非常に慎重な議論が行われるだろう。
明らかに利上げ幅が今後0.75%ではなくなることを示唆している。
だが当たり前だ。永遠に0.75%で上げ続けるわけにもいかず、今回の会合で政策金利が3.75%まで上がれば利上げの終着点も見えてくる。
だがそれが12月の会合を0.75%ではなくすことなのかどうかは明らかにされておらず、それで市場は12月会合については五分五分の織り込みとなっているのである。
こうした動向についてサマーズ氏は次のように述べている。
Fedの一部当局者から聞こえてくるようなハト派転換の話は、これまでの経済データと照らし合わせると適切とはいえない。
だからインフレが下落したという非常に明確な兆候が見られるまでFedが今の姿勢を維持することを期待したい。
問題は12月の会合ではない
これまでもインフレに対して一番のタカ派だったサマーズ氏がこう言うことに驚きはない。
だが現在筆者が感じているのは、12月の利上げ幅がそれほど重要かということだ。
市場や経済にとってそれよりも問題なのは、12月の利上げ幅がどうであろうが年末までには政策金利は4%台まで上がり、しかも来年の内にそれを再び下回るのは、経済が深刻な不況に陥って利下げを強いられるシナリオを除けばほぼあり得ないということだ。
リーマンショック以降、ゼロ金利に慣れきった株式市場と実体経済が4%以上の高金利に長時間さらされる。筆者には悪夢しか見えないのだが、株式市場の短期的な動きはそうではないらしい。
FOMC会合に向けて反発している株価の動きは報われるのだろうか。仮に12月の0.5%利上げが示唆されても、しかしだから何だというのだろうか。それは重要だろうか。
サマーズ氏の言う通りインフレは根強く、利上げの終着点は5%を上回ることが予想されている。早い段階でその数字を予想していたゾルタン・ポジャール氏は流石である。
2023年は年間通して政策金利が4%以上の年となる。だが株式市場は12月の利上げ幅の0.25%の差に湧いている。馬鹿ではないのだろうか。
長期的には長期トレンドに従うが、反発時には極めて近視眼的になるのが下落相場の特徴である。すがるものが他にないからである。