ガンドラック氏: コロナ後の緩和のやり過ぎで7%上がったインフレ率、引き締めのやり過ぎで15%下落する可能性

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がThe Market NZZのインタビューで、Fed(連邦準備制度)の今後の利上げについての債券市場の奇妙な織り込み方について語っている。

利下げを織り込む金融市場

インフレ抑制のためにこれまで株価を支えてきた低金利政策を撤回し、利上げを開始しなければならなくなって以来、米国株は下落しており、今後この金融引き締めがどうなるのかが注目されている。

そして金利先物市場は今後の利上げ動向についてやや奇妙な織り込み方をしている。ガンドラック氏は次のように語っている。

奇妙なことに、市場のコンセンサスはFedが今から1.25%か1.5%利上げした後、6ヶ月か7ヶ月後には何故か緩和に転換しているというものだ。

金利先物市場によると、政策金利は来年3月にピークになり、そこから下がり始めることが予想されている。

それは何故だろう? ガンドラック氏はこの織り込みを次のように皮肉っている。

これは身長185cmで体重80kgの健康な男性が「クリスマス休暇に40kg太るけど、過激なダイエットでイースターまでには同じだけ痩せる」と言うようなものだ。何故だ? これは健康的ではない。非常に不健康だ。

市場は何故Fedの利下げを織り込んでいるのか。上げてから下げるならば、そもそも上げなければ良いのではないか。

1つの可能性は、金融引き締めによる株価の下落や経済の落ち込みが来年3月には耐えられない水準に達し、Fedが利下げに転換しなければならなくなるシナリオである。

そうでないのであれば、Fedが利下げをする理由は1つであり、インフレ抑制の目標が達成されるということである。

ガンドラック氏は次のように続ける。

しかしそれは1年以内か来年末までにインフレ率が9%からFedの目標である2%に下がると言っているようなものだ。それは希望的観測だ。

だが本当にそれが可能ならば、インフレ率がそれほど早く急激に下がるならば、何故それが2%で丁度止まると言えるのか? 何故マイナスまで行かないと言えるのか? それほどの勢いのある経済減速がデフレ方向に何故行き過ぎることがないのか?

常に行き過ぎる中央銀行

ガンドラック氏の言いたいことは、単に現在の金融政策が行き過ぎるかどうかということではない。むしろ彼が言いたいのは、中央銀行の政策は常に行き過ぎてきたということである。

例えば2018年にはパウエル議長は筆者を含む投資家の懸念を無視して金融引き締めを強行し、株価が急落した後もそれは金融引き締めのせいではないと言い張ったが、結局は株価下落が自分のせいだと認めざるを得なくなった。

それが緩和であれ引き締めであれ、彼らは行き過ぎなければ止まらない。この現象をスコット・マイナード氏は以下のように言い表した。

行き過ぎた現金給付

時間の針をコロナ後に戻そう。直近の政策で政府が「やり過ぎた」のは、コロナ後の現金給付である。アメリカでは3回に分けて1人当たり合計40万円以上の現金給付が行われ、その資金は原油や農作物などのコモディティ市場に流れ込み、世界的なインフレを引き起こした。

だがその効果は時間差でやってきた。金融市場では価格高騰は2020年には始まっていた。ここでインフレを取り上げた最初の記事が2年前だということを読者は信じられるだろうか?

まず金融市場で原油や天然ガス、大豆や小麦などの価格が上がる。それが企業の仕入れ価格である卸売価格に転嫁される。そして最後に店で売られる商品の価格である消費者物価に転嫁される。

それが順序である。そしてその転嫁が起きたのは、インフレの中心地であるアメリカでは去年、金融市場を通して影響を受けた日本では今年だった。

丁度良くウクライナ危機が起きてくれたので政治家たちは一斉にインフレはロシアのせいだと言い始めた。馬鹿しか信じない妄言だが、問題は世の中にはほぼ馬鹿しかいないということである。

デフレも時間差で来る

だがインフレはそもそも筆者を含む投資家が2年前から警告していたことである。しかし多くの人々はそれが手遅れになってからしか気づかない。

そしてそれは緩和だけに当てはまるわけではない。ガンドラック氏は次のように言う。

物価高騰が時間差で来たように、デフレも恐らく時間差で来ることになる。

こうしたショック療法は時間差で機能する。

引き締めが終わるのは中央銀行が手遅れに気付く瞬間であり、不幸なことにそれ以外に引き締めが終わるシナリオは存在しない。ガンドラック氏が言いたいのはそういうことである。

彼は次のように語る。

コロナ後、われわれは大規模で過激な経済政策を行なった。その構想は、コストのない資金供給とコストのない経済成長が何の副作用もなく実現できるというものだった。

だが勿論副作用はあった。そして今度は人々は、政策金利を3.5%か4%に上げるだけで対症療法ができると考えている。しかしそれがインフレ率を7%下げると考えられるならば、何故下落幅が15%にならないと言えるのか?

人々は紙幣を刷りたいだけ刷ってばら撒いても何の問題も起こらないと思った。そして今では、金融引き締めを行なっても対して株価も下がらず不況も起きないと考えている。

人々の考えることは常に間違っている。いまだに彼らはインフレはロシアのせいだと考えており、インフレ対策にお金をばら撒こうとしているのだから、金融引き締めについても事故をやらかすと考えるのが自然である。

ガンドラック氏は次のように纏める。

われわれはこうしたショック療法を時間差で効果が現れるまでやり続け、効果が現れる頃にはやり過ぎているというわけだ。

われわれの過剰な緩和政策が引き起こしたインフレの問題に対し、われわれは過剰に反応するというのが次のショックになるだろう。