まだドル円の上昇を長期トレンドと信じている投資家も居るのかもしれないが、そろそろ真逆の見通しを真剣に考え始めるべき頃合いだろう。
ドル円に関しては2015年末よりドル高トレンドは反転すると主張してきたが、最近の動向を見ていると、量的緩和が行われている円やユーロがむしろ買いである可能性があると思うようになってきた。つまりドル高が終わりを告げるだけでなく、円安も危ういということである。両サイドからの圧力はドル円にとって厳しい状況となるだろう。
円やユーロが買いである理由
2016年の相場では買える通貨がない。世界経済の長期停滞を受け、ほとんどの先進国が金融緩和を行っている。これまで強かったドルも、米国経済の減速で利下げや量的緩和への後戻りとなれば、これまでの上昇は急激に巻き戻されるだろう。それが2016年最大の投資テーマである。
資源国通貨は原油や金の反発で持ち直しているが、原油については急激な反発は望めず、したがって資源国がある程度の期間厳しい状況に置かれ続けることに変わりはないと予想している。
新興国通貨については中国経済の減速の影響を中国そのものよりも深刻に受ける可能性が高い。著名ファンドマネージャーのジョージ・ソロス氏は、ダボス会議でアジア通貨の空売りを宣言している。
買える通貨
これまでは金くらいしか買えるものがないと考えていたが、そこで頭に浮かんだのが円やユーロなど、緩和をほとんど出し切ってしまった通貨の買いである。つまりはドル円の空売りということになる。
2016年のテーマは先進国の長期停滞である。元米国財務長官のラリー・サマーズ氏が言うように、デフレと低成長が長期トレンドであるということである。
彼の理論が正しければ、一見好調に見える米国経済も、量的緩和を止めて利上げを強行すれば、景気後退に逆戻りするということになる。この意味でドルの買いは危ないのである。
さて、ここからが本題である。あらゆる先進国通貨に追加緩和の懸念があるとすれば、買うことの出来る唯一の通貨は何か? それは金融緩和を既に出し尽くしてしまった通貨である。つまりは円とユーロである。
円とユーロの緩和余地
日銀とECB(欧州中央銀行)はともにマイナス金利に踏み込み、そして量的緩和を既に拡大した中央銀行である。結果として、日本の長期金利は-0.09%、ドイツの長期金利は0.18%と、共にゼロ近辺に達している。一方でアメリカの長期金利は1.9%である。
ECBのドラギ総裁も認めるように、マイナス金利には限界がある。マイナス金利も預金金利に波及するほど行き過ぎれば預金者は預金を引き出すだろう。日銀は今後もマイナス金利の更なる利下げを続けるだろうが、続ければ続けるほどマイナス金利の限界に近づいてゆくことを市場は認識するだろう。
また、量的緩和も既にほとんど効果を失っている。ECBは3月に量的緩和を拡大したが、明確な追加緩和であるにもかかわらず、ユーロが下がることはなかった。
日銀も追い詰められればもう一度量的緩和の拡大を行うかもしれないが、恐らくは同じ結果に終わるだろう。追加緩和は今では、中銀が残り少ない手段を使い果たすことを意味してしまうからである。金融政策とは期待に作用する政策であり、将来のための手段が残っていなければ期待を起こすことは出来ない。
今後の動向
ドル円の空売りを目指す投資家にとって、またとない機会が2016年内に来るかもしれない。それは米国が利上げに固執してドル高がある程度継続する場合である。米国が利上げを強行する可能性はゼロではない。彼らにはどうしても利上げをしたい理由があるからである。
しかし利上げの強行はアメリカ経済には致命傷となる。無理な利上げの結果、その時にドル円がもし120台にでも居たとすれば、それは大いに売り場となるだろう。長期停滞論が正しければ、アメリカはいずれ量的緩和を再開する。そうなればドル円の目標レートは80円である。
まだ今は時期ではない。しかし、ドル円を空売りする機会が今年中にあるかもしれないことだけは念頭に置いておこう。無ければ無いで良いのである。米国が素直に利下げに向かえば、金価格が高騰するだろう。
逆に利上げに固執する場合、金のポジションの含み益は元に戻るかもしれないが、その場合にはドル円の空売りが出来るようになることを覚えておこう。どちらに転んでも良い、という状況は投資家にとってベストである。