2016年原油価格の推移予想まとめ: シェール産業の倒産見通しとOPEC協調の影響

原油相場の動向についてはこれまで何度も書いてきたが、ここで相場見通しを一度纏めておきたいと思う。

先ず原油相場の長期的な流れであるが、リーマンショック後100ドル前後で推移していた米国のWTI原油価格は2014年6月頃に下落し始め、2016年2月には26ドル辺りまで下がる暴落となった。以下は原油価格のチャートである。

2016-3-22-WTI-crude-oil-middle-term-chart

原油の暴落は、米国のシェール革命により原油の供給量が大幅に増えたことによる。シェール革命とは、従来の掘削方法では産出できなかった地中深くの原油を、掘削方法の革新によって産出可能にしたものである。結果として掘ることの出来る原油の量が大量に増え、市場は原油の在庫で溢れかえった。今では原油タンカーなどでさえ原油在庫の倉庫として使われている。

減産を拒否したサウジアラビア

一方で、サウジアラビアなどのOPEC加盟国は、原油の供給過剰に対し、減産で供給量を調節することを拒否した。OPEC加盟国が減産すれば供給が減り原油価格は上昇するかもしれないが、販売量が減れば収益が減少するためである。対する米国シェール企業はOPECのような団体を持たないため、協調して減産し、原油価格に影響を与えるという考え方がそもそもない。

結果として供給は減少せず、原油価格は暴落したのだが、それでもサウジアラビアが強気でいられるのは、サウジアラビアの産油コストが米国シェール企業のそれよりも低いことにある。原油安が続けば、先に破綻するのはシェール企業の方だということである。シェール企業は新たな技術を駆使して掘削しているため、掘れば原油が出てくる従来の方法よりもコストがかかる。サウジアラビアは米国シェール産業の破綻を待っているのである。

このように、2016年の原油価格はサウジアラビアなどのOPEC加盟国と米国シェール産業の動向によって決まると言える。したがって2016年から2017年の原油価格を予測するためには、これら2つのグループの動向を予測すれば良いということになる。

米国シェール企業の倒産は近いか?

先ずは米国シェール産業の方から考察してゆこう。端的に言えば、以前報じたように、シェール企業はまだ倒産まで時間が掛かりそうだと言える。各社赤字を出していることには変わりはないが、赤字の原因は先行投資であり、産油コスト自体ではない。産油施設が既に出来てしまった以上、後はそれを稼働させるだけであり、先行投資が嵩んでいるならば尚更稼働させて原油を産出し、売上を増加させなければならないという状況である。

では赤字は倒産に繋がるだろうか? 大手シェール企業の決算は、資金にまだ余裕があることを示している。

キャッシュフローなど財政状況の詳細は上記の記事を見てほしいが、一番倒産に近いChesapeake Energyでさえ1年分ほどの資金があり、これは原油価格が反発して売上が改善すれば1年以上でも生き延びてしまうだろうことを意味する。その他のシェール企業については元々倒産からはほど遠く、数年分の資金がある。

シェール企業の現状が示す原油価格の先行き

これらの事実が原油価格に意味するものは何か? 先ずは再び原油価格のチャートを見てもらいたい。

2016-3-22-WTI-crude-oil-middle-term-chart

先ず、ほとんどのシェール企業は2014年末まで黒字であった。これは70ドル前後が損益分岐点(初期投資を含めた採算コスト)であることを示しており、ここまで上がれば供給は完全に元の状態に戻るだろう。

少し下がったレンジの60ドル台は、2015年における高値であり、原油価格がこの水準に長期で居座るならば、Chesapeakeの財政は2015年より改善することになり、よって寿命は1年以上に延びるだろう。したがってこの水準でも過剰供給は当分改善されない。

これらを考慮すれば、差し当たっては50ドル台が天井であると見るべきだろう。40ドル台に差し掛かれば、コールオプションの売りを使って、50ドル台より上には上がらないことに賭けるトレードを行うことが出来る。50ドルに差し掛かれば直接空売りを行っても良いだろう。オプションについては以下の入門記事で説明している。

個人的には40ドル台でのコールの売りを開始した。このレンジより上に上がれば下落方向に賭けるポジションを更に追加するつもりである。

原油価格の底値

一方で、下値のほうはどうか? シェール企業は皆コスト削減に全力を挙げており、各社の原油産出コストはかなり下がっている。

決算によれば各社は初期投資を含まない産出コストである操業停止点は10ドル台であるとしており、この数字を信じるとすれば、シェールオイル供給減の条件は、10ドル台が半年ほど維持されるか、あるいは30ドル前後より低い水準が1年以上続き、シェール企業の破綻へと繋がるのを待つかである。

ちなみにOPECの方は20ドル台に突入したときに協調の姿勢を見せ始めた。

この水準でベネズエラなどの小国は既に悲鳴を上げており、サウジアラビアも10ドル台が続けば財政が立ちゆかなくなるだろう。したがって、シェール産業とOPEC両方の事情から、20ドル前後の水準が長続きすることはないと予想する。

個人的にはOPECの協調の姿勢を見て、原油価格が30ドル前後のときに、20ドル以下の水準が長続きしないことに賭けるプットオプションの売りをエネルギー関連銘柄について行った。

上限のほうに賭けた新たなポジションと合わせて、20ドルから50ドルという広いレンジにさえ収まれば利益の出るポジションが組めたことになる。ボラティリティを上手く利用した結果である。金相場や株式市場における投資も含めて、2016年のポジションはかなり上手く行っていると言える。

結論

上記を纏めると、米国シェール産業の財政状況を考えれば原油価格は50ドル台が天井であり、シェール産業とOPECの産出コストを考えれば、20ドル前後が底値と言える。原油市場はボラティリティが高いため、一時的にこれらのレンジを逸脱することがあっても、それは長続きしないという意味である。

また、投資家は上記の予測に加えてドル安による原油価格の相対的上昇に気を付ける必要がある。しかしこれは原油に対するポジションで特に対応するよりは、金の買いポジションがそのリスクをヘッジしてくれることを期待したい。

ポートフォリオ内の異なるポジション同士が互いのリスクを上手くヘッジし合うというのが、グローバル・マクロ戦略の真骨頂である。量的緩和で買えば上がる相場では誰でも儲かったが、2016年の相場ではグローバル・マクロは利益の出る数少ない戦略となるだろう。