引き続き、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏のBloombergによるインタビューである。今回はインフレ抑制のために何が必要かを語っている部分を紹介したい。
インフレはロシアのせい?
世界的なインフレが問題になっている。世間ではロシアによるウクライナ侵攻が原因だと言われているが、実情はまったく違う。
例えばロシアがウクライナからの輸出を止めていると言われている小麦だが、実は小麦価格は既にウクライナ前の水準まで戻っている。
ロシアのウクライナ侵攻は2月末に始まったが、今の小麦価格は既に当時の水準よりも低い。
だから小麦価格の高騰がウクライナ情勢の問題であるとすれば、その問題は既に解決されている。
にもかかわらず、小麦価格は実際にはまだ高い。何故か? チャートからも分かるが、小麦価格はウクライナ情勢前から既に高騰していたからである。
だから現在のインフレはロシアともウクライナとも関係がない。いつものことだが、大手メディアの経済ニュースは実体経済の実情とはまったく関係のない作り話を報道している。サマーズ氏はそもそもこうなることを事前に警告していたが、政治家やマスコミは予想通りのデマを垂れ流した。
インフレの本当の原因
では小麦価格やその他の農作物、原油などの価格は何故ウクライナ情勢前からそもそも上がっていたのか?
それについてはサマーズ氏が既に語っている。
原因はコロナ後に世界中の政府が行なった現金給付などの財政政策である。
特にアメリカでは1人あたり換算で日本の4倍以上の大量の現金がばら撒かれた。誰もがばら撒かれた現金でものを買ったのでものが不足になったということである。そして人々は今、ものが不足していると嘆いている。馬鹿ではないのだろうか。
話の流れとしてはこういうことだが、どれだけ大量の資金がばら撒かれたのかを簡単に実感できる経済データがある。アメリカのGDP比の財政支出のチャートである。
当然下方向が財政赤字ということになるのだが、このチャートは政府がお金をばら撒くためにどれだけの赤字を出したのかを物語っている。
そしてその規模はと言えば、2020年にGDPの15.0%、2021年にGDPの12.1%である。合計でGDPの30%近い数字になる。
もう一度言う。これだけの現金をばら撒いて、何故インフレが起こらないと思ったのか? 誰か説明してほしい。
インフレ抑制の方法
こうして起きてしまった、政治家による完全な人災であるところのインフレに対処する唯一の方法は、もう現金をばら撒かないこと、そしてばら撒かれた現金を回収することである。
それでも今年の秋に中間選挙を控えたバイデン大統領率いるアメリカ民主党はばら撒きたい。だがそれを民主党支持者であるサマーズ氏が次のように批判する。
今は学生ローンの支払い猶予延長のような財政刺激策を行うタイミングではない。今はいかなる大規模な財政支出も行うべきタイミングではない。むしろ今は短期的に財政赤字を縮小させるべきタイミングだ。
日本政府が行なっているガソリンに対する補助金についても言えることだが、財政赤字がインフレを招いたのに、更に現金を投入して何がしたいのだろうか。彼らは結局、票田に資金をばら撒くことしか考えていないのであり、政治家の政策がインフレを引き起こすのは当然の結果である。インフレに対抗する唯一の策は、政治家を取り除くことである。
過去にはこのようにして大英帝国もオランダ海洋帝国もインフレで滅んできた。だからBridgewaterのレイ・ダリオ氏は過去の覇権国家について研究し、現代の国家も同じようになると主張しているのである。
政治家はばら撒くことしか考えていない。増税を行うにしても、票田ではないところか、増税しても文句を言わないところで増税する。
自民党が法人税は上げないが消費税を上げるのはそういうことである。経団連に所属するような大企業は海外売上が多いので、日本の消費増税には大して影響を受けない。
それでアメリカでも、物価が高騰しているにもかかわらず、政治家は増税よりばら撒きを行ないたがる。そして意味不明の理由で物価上昇が善とされていたように(実際にインフレが起こるまで誰もそれに気づかなかった)、何かしらの理由をつけて増税は悪とされる。
サマーズ氏は次のように語る。
インフレの状況下では増税を行うべきではないという考えが主流になりつつある現状に非常に失望している。しかし実際には、経済から需要の一部を消し去るために増税を行うことはまったく正しいことだと思う。
だが経済学において主流派であるということは、間違っているということとほとんど同義である。「主流派」が去年、インフレは一時的で何の問題もないと言っていたことを思い出したい。
しかし審判の日が来ている。財政赤字を垂れ流し、インフレを礼賛する国は、物価高騰か通貨下落かその両方に苦しんでいる。
一方で財政規律を大切にし、身の丈以上の消費を控えてきたスイスのような国の通貨は上昇している。
リフレ主義の似非経済学に従ってきた国がインフレか通貨暴落のどちらかで滅ぶ日が近づいている。あるいはそれはもう来ているのかもしれない。