アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が急速に減速するアメリカ経済について語っている。
減速するアメリカ経済
アメリカ経済がどうやら減速しているようだ。それは前期比年率でマイナス成長となった第1四半期のGDP速報の時点から意識されていた。
そしてその懸念は先週発表された5月の実質消費が4月の数字から減速したことで増幅された。実質消費のチャートは次のようになっている。
現金給付が終わった後の伸び悩みが見て取れる。
景気減速の理由
世界最高のマクロ経済学者であるサマーズ氏は、消費の減速について次のように分析している。
インフレが人々の購買力を侵食している。
現金を大量にばら撒いた去年の財政刺激が終わったこと、金利の上昇が住宅市場や関連支出を抑制していること、一般に不確実性が増していること、人々が不安に感じていること。これらすべてが消費にのしかかっている。これは一定期間続くだろう。
ものの値段が高くなったため、人々がものを買えなくなっている。アメリカでいまだ高止まりする住宅価格に対し、販売数はかなり減速していることが、「高くて買えない」状況を象徴している。
物価が高止まりしたまま経済活動が停滞してゆく。それがスタグフレーションである。筆者が年始から予想し続けてきた状況である。
サマーズ氏は次のように続ける。
2022年内に景気後退入りするリスクはかなり上がったと言わざるを得ない。
大規模な景気の減速なしにインフレ率が目標値に回帰することはないとずっと考えてきた。
インフレ率はどうなるか
だが1つ明確にしておかなければならないことがある。消費が減速しているからといって、インフレが減速するとは限らないということである。
先週の記事でも言い続けているが、2020年の現金給付が原因でインフレが深刻化するまでに2年かかったように、インフレが沈静化するプロセスにも時間がかかり、順序がある。
まずは暴騰していたコモディティ市場の沈静化であり、これはもう起きつつある。
そして徐々に実体経済の減速の兆候が現れ始める。これが今の段階だろう。
そして最後にインフレ率がとうとう天井を付ける。そして1970年代の事例を研究すれば、それこそが株価の底値のタイミングであるということをこれまで論じてきた。
インフレ率の天井のタイミング
多くの著名人が来年の景気後退を予想するなかで、筆者は今年の景気後退入りがありうるということを語ってきた。そしてそれがどうやら実現しつつあるのかもしれない。
景気後退が近いのは良い。だがインフレ率のピークはいつだろうか? それが株価の底値のタイミングなのだとしたら、それは投資家にとって一番重要である。
サマーズ氏は次のように語る。
もし今後6ヶ月から9ヶ月の間に景気後退入りすることがあれば、インフレ圧力は緩まることになり、中央銀行は経済が強かった場合ほど利上げを強行する必要もないと感じることになるだろう。
筆者は株式の空売りとコモディティの買いという年始からのポジションを既にある程度利益確定しているが、ドラッケンミラー氏と同じく、別に株安の終わりを予想しているわけではない。
ただ、考えられるシナリオが2つあると思っているのである。
インフレ率についてはここから数ヶ月か、遅ければ年末頃にピークを迎えるだろう。だが、その数ヶ月の差が急速に下落している株式市場にとっては大きな問題となる。
現在、米国株は20%程度しか下落しておらず、40年ぶりの物価高騰の後始末がこの程度の株価下落で済むと思っていないのは今もまったく変わっていない。
ピークが年末前後である場合、株式市場は年末に向けて変わらず下落を続け、その頃には恐らく想定下落幅である50%程度の下落になっているはずである。
これはその時に判断することだが、そこまで落ちればそこが大底となる可能性がある。
だがもしインフレ率のピークが早ければ、株式市場は予想より早く反発する可能性がある。
しかし大底までの下落幅をそれで変えることは出来ない。ツケは払わなければならない。だからその場合、株式市場にとってそこは大底ではなく、その後の上昇は2番天井を探す動きになり、筆者は適切なタイミングで空売りポジションを元の規模に戻すだろう。
そして株価が上昇すれば、一時的に減速したインフレも戻り始める。それは結局、これまでずっと予想してきたインフレ第2波シナリオである。
だがその開始がいつか、そして第2波の開始が株価の大底になるのかということは、インフレ率のピークのタイミングによって変わってくる。
結論
つまり、株価の回復が早ければそこは大底ではなく、遅ければそこが大底となるだろう。そしてそれは今後のインフレ率の動向次第ということになる。
空売りポジションをある程度利益確定した理由がこれで説明できただろうか。恐らくドラッケンミラー氏も同じ相場観で居るのだろう。