アメリカの元財務長官で世界有数のマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、バイデン政権のインフレ対策とインフレの長期見通しについて面白いことを語っている。タイトルは、ここの読者には聞き覚えのあるものだろう。
インフレ見通し
4月のアメリカのインフレ率が発表された。
この8.2%という数字は前月3月より低かったが、市場予想よりは高かった。それについてサマーズ氏は次のようにコメントしている。
インフレの数字はまたもや人々の予想より悪かった。3月のインフレ率がピークかもしれないが、近いうちに2%に近づくことは有り得ない。
インフレ率が減速している理由、そして今後数ヶ月減速する可能性が高い理由については以下の記事で書いている。
だが結局は短期的な減速の話ではなく、インフレが長期的にどうなるのかということが株式市場にとって重要である。
サマーズ氏は今後のインフレについて次のように語っている。
インフレの核と言うべき労働市場は過熱しており、サービスの価格を押し上げている。地政学的リスクは供給網を圧迫し、コモディティ価格が高騰している。
ロシアのウクライナ侵攻で西側諸国がロシア産のエネルギー資源の禁輸を行なったことにより、西側諸国のエネルギー価格は高騰している。原油価格は以下のように推移している。
それでロシアが苦しんでいるかと言えば、ロシアは中国やインド、ハンガリーなど中立国に原油や天然ガスを売れば良いだけである。
ロシアはむしろ西側の制裁で輸出品の値段で上がって儲かっている。それがルーブル高の理由である。西側諸国の行動は本当に自殺としか言いようがない。消費者は巻き込まれてインフレを享受している。
バイデン政権のインフレ対策
この状況にバイデン政権はどう対応するだろうか。彼らが持ち出しているのは「価格釣り上げ禁止法」であり、現在の価格高騰は強欲な企業が価格を釣り上げているからだという仮説のもと、「価格の釣り上げ」を禁止する法案である。
この馬鹿げた法案は当然与党民主党から出てきている。だが彼らの紙幣ばら撒きと脱炭素政策こそがインフレの本当の原因であることは、ここの読者には言うまでもないだろう。
そしてその結果出てきたものが、要するに価格統制法案である。この法案についてサマーズ氏は次のようにコメントしている。
「価格の釣り上げ」という概念を経済学に持ち込むのは、トランプ大統領が消毒薬を注射してコロナを治す案を医学に持ち込んだことと同じ危険なナンセンスだ。
オバマ政権の財務長官を務めた民主党支持者のサマーズ氏からこの言葉が出てくることの意味は重い。
ついに始まる価格統制
価格統制の危険性については去年の1月の記事で語っておいた。もう1年以上前のことである。
だがこの時点でそんな状況になると思っていた人は誰もいなかっただろう。そして価格統制が行われれば、誰もものを売りたくなくなり、人々はますますものを手に入れることが出来なくなる。考えられるなかで最悪のインフレ対策である。
サマーズ氏は次のように続ける。
釣り上げ禁止法がインフレ圧力に何らかの持続する方法で意義ある効果をあげる見込みはまったくない。
それはむしろあらゆる種類のものの不足を引き起こすだろう。
市場でものが不足した場合、価格が上がることには意味がある。価格が上がるから生産者はこぞって生産しようとし、供給が増えて不足が解消されるのである。
にもかかわらず価格統制はその正しいサイクルを止めてしまう。
政治家は何故いつも最悪の選択肢しか選べないのだろう? 少なくとも政権が共和党ならばこのようなことにはなっていなかっただろうが、それにしても酷すぎる。そして日本では首相(名前は忘れた)がインフレ対策で金をばら撒こうとしている。
政治家は基本的に馬鹿なので、彼らに経済を任せていること自体がおかしいのである。
インフレ第2波へ
このような状況だから、どう考えてもインフレがこのまま収まるようなことは筆者には考えられない。そしてそれは株価の大底がまだまだ遠いことを物語っている。
サマーズ氏はインフレの長期見通しについて次のように述べている。
インフレが1回の景気後退で収まることはほとんどない。通常、インフレを押し下げる複数回の試みがあってようやくインフレは本当に収まる。
少なくとも1960年代から1970年代にあった前回の物価高騰では事実そうなっている。
前回、アメリカで物価高騰があった当時のインフレ率の推移を見てみよう。
3つの山が出来ている。そしてこれからも同じようになるのである。
この話はここの読者ならば聞いたことのある話だろう。何故ならば、これは去年の12月に筆者が予想していたことだからである。
何故インフレがこうなるのかはこの記事で詳しく説明しているので是非読んでもらいたいが、この記事の最後にはこう書いてある。去年12月のコメントである。
これまではインフレ第1波のことだけを書いてきたが、市場がようやく第1波を警戒し始めたので、ここではそろそろ第2波について考え始めても良い頃だろう。他人より早く先を読むことが投資家の仕事だからである。
世界最高のマクロ経済学者であるサマーズ氏が5ヶ月遅れで筆者の意見に同意してくれたことは光栄と言うべきだろう。
結論
投資家にとって、そして消費者にとって政府が価格統制を考え始めたことは危険である。
それはものが自由に手に入らなくなることを意味する。そしてブラックマーケットでものが高価に取引される日が確実に近づいている。
そうした状況で強いのは、当然ながら現物資産を持っている人である。貴金属やジュエリーなどの現物資産が買い占められる時代がこれからの10年ということになる。
しかし短期的にはまず株価の暴落に対処することからである。株価が下がれば貴金属なども下がってしまう。
だがそれで政府が緩和を再開する時、第1波より酷いインフレ第2波が始まるだろう。それが筆者が去年から予想していることである。以下の記事は是非読んでもらいたい。