アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでアメリカの金融引き締めと金利水準について語っているので紹介したい。
インフレと金融引き締め政策
アメリカは現金給付と脱炭素政策のせいで物価高騰に見舞われている。
それでずっと緩和を続けていたFed(連邦準備制度)もインフレ抑制のため利上げを開始し、今週のFOMC会合で量的緩和を逆回しにする量的引き締めを開始すると予想されている。
サマーズ氏は現在の中央銀行の動きについて次のように評価している。
正しい選択だろう。実際遅すぎるくらいだ。
むしろ何故Fedが史上最悪の住宅価格の高騰の最中に大量の住宅ローン証券を買い入れていたのかが理解できない。
アメリカの住宅価格の上昇率はリーマン・ショック時の最高値を大幅に越えている。
にもかかわらず、Fedはつい最近まで住宅価格の高騰を煽っていたわけである。
この未曾有の住宅バブルをどうするのか。株価もそうだが、バブルというものは金融の歴史上軟着陸したことがほとんどなく、現実的には金融引き締めでバブルを破裂させるしかないわけだが、Fedはこれからそれをやろうとしているということである。
金利は何処まで上がるか
株式市場が最近動揺している理由はそれである。米国株は次のように推移している。
では金利は何処まで上がるのか。サマーズ氏は次のように言う。
インフレを抑制するためには、実質金利を彼らの言う中立水準以上に上げる必要があるだろう。
実質金利とは名目金利からインフレ率を引いた実質の金利のことである。だから次のような計算になる。
現在のインフレが長期的に3%や4%に落ち着くとすれば、Fedは中立の実質金利を0.5%と想定しているので、インフレを抑制するためには金利を4.5%まで上げる必要があるということになる。
だがFedは同時に金利を2.5%まで上げてそれで中立になるとも主張している。それは間違いだ。2.5%が中立な水準であるためにはインフレ率は2%まで下がらなければならない。
だが現在のインフレ率は8.6%であり、それは有り得ないだろう。長期的には3%か4%に収斂するというサマーズ氏の見方もかなり甘めの推定だ。
今後の利上げを織り込んで推移する2年物国債の金利は次のように推移している。
市場は2.7%近辺までの利上げを想定しており、それで株式市場は荒れている。だがサマーズ氏の想定では4.5%まで上がらなければならないという。その時に株式市場はどうなるかは明白である。
金利が上がらない可能性もある
一方でサマーズ氏は次のようにも言う。
だから金利は上がり続けるだろう。もしそうならないとすれば、それは恐らくインフレに関して突如として良いニュースが出てくるからではなく、実体経済に関して多くの人の想定よりも悪いニュースが出てくるからだろう。
つまり、金利を上げなくても良くなるのは、インフレが勝手に落ち着くからではなく、上記のような金融引き締め政策が実体経済を殺してしまうからである。ジェフリー・ガンドラック氏が1年前から予想していた状況である。
しかし政策金利4.5%は未曾有の領域ではないか。2018年の世界同時株安を引き起こした高金利の約1.5倍である。それでどうやって株価が暴落しないと言うのだろう。