ロシアのウラジミール・プーチン大統領の報道官ドミトリー・ペスコフ氏は、プーチン氏がロシアの通貨ルーブルを金価格に対して固定することを議論していると明らかにした。いわゆる金本位制度の復活を示唆したということである。
ルーブルを金相場に固定する
この話は西側の制裁によってルーブルが不安定な状態にされた後に出てきている。アメリカやEUの制裁によってルーブルは一時暴落したが、筆者は状況を冷静に見て次のように書いておいた。
ロシアの主要輸出品であるエネルギー資源の価格はウクライナ情勢のために高騰しており、この状況でロシア経済が消えてなくなることは有り得そうにない。
この通りルーブルの価値は急回復した。以下はドルルーブルのチャート(上方向がドル高ルーブル安)である。
理由については以下の記事を参照してほしい。
結果としてルーブルは今のところ高騰しているドルよりも更に強い最強通貨となっている。
それでもロシアは西側の都合で外貨準備を強奪され、通貨も一時的とはいえこれほど不安定にさせられた状況にうんざりしているのだろう。だからプーチン氏はルーブルの為替レートを金価格に対して固定し、他国の政策に対して自国通貨が脆弱にならない方法を考えている。
金本位制度とは何か
それは金本位制である。しかし金本位制が太古の昔の話となってしまっている現代では、金本位制とは何かということから説明する必要があるだろう。
それは紙幣とは元々何だったかという話である。紙幣とは銀行にゴールドなどの資産を預けた時の預かり証のことだった。
銀行とは紙幣を預けるところではなく、貴金属などの資産を預けるところだったのである。だからその時の預かり証であるところの紙幣は多数の銀行によって発行されていた。
それを18世紀のイギリスで財政破綻の危機にあったイギリス政府がイングランド銀行の独占業務としたのが中央銀行の始まりである。
しかしそれでも当分の間、紙幣がゴールド(江戸時代の日本の場合はシルバー)の預かり証であることに代わりはなかった。中央銀行に紙幣を持って行けばゴールドを受け取ることが出来たからである。
しかし政府というものは一般に腐敗する。政府はほとんど例外なく、預かっているゴールドの量以上の紙幣を次第に印刷するようになり、当然ながらゴールドが返せなくなる。
アメリカでは1971年にニクソン大統領が「ゴールドは返さない」と宣言した。これがいわゆるニクソンショックである。
つまり、紙幣を持っていても預けていたはずのゴールドは返ってこなくなったということである。
元預かり証
非常に面白いのは、政府によってゴールドが不法に奪われたにもかかわらず国民が何の文句も言わないことと、更に言えば何の価値もないただの紙切れになった元預かり証を現代人が後生大事に財布に入れていることである。
盗まれたゴールドは何処に行ったのだろう。それはともかく、人々は次第に紙幣に価値がないことを自覚してゆく。それがインフレであり、それは紙幣があってもものが買えなくなることである。
だから政府がインフレを推奨する理由も明らかだろう。彼らは愚かな国民が気づかない内に紙幣に消えてなくなってほしいのである。そうすれば盗んだゴールドのことも忘れてくれるだろう。
だがゴールドを盗まれても気づかなかった人々も、物価高騰でものが買えなくなれば流石に気づくだろう。だから後先考えない岸田氏やバイデン氏以外の政治家は、この状況を先に回避しようとする。
その試みがロシアの金本位制の検討である。ロシア連邦中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁はこれを否定している通り何も決まったものではないだろうが、少なくともプーチン氏がそれを考え始めたのは明らかである。
ドルから離脱したい非西側諸国
その目的は明らかにドルの世界支配から逃れるためである。そしてそれはロシアだけの問題ではない。アメリカはNATOの対ロシア戦争に同意しない中国やインドなどの中立の国々に制裁をちらつかせて脅しをかけており、彼らもドルを保有し使っている限りアメリカに資金を盗まれかねない。
「最大の目的はこの戦争に巻き込まれないことである」と言ったハンガリーにとっても、ドルからの離脱は急務だろう。
アメリカ国民の代わりにウクライナ国民にロシアとの殺し合いをさせたいアメリカ政府と、それに加担している2014年以後のウクライナ親米政権を天使のような存在に見せたい西側メディアの洗脳を受けていない国は日本人が思っているより多い。
彼らにとってドルの保有は明らかに自国に対する脅威となった。そうした国々の中央銀行(小国でも莫大な資金量である)が一斉にドルを売ってゴールドを買い始めたら、ドル建て金相場はどうなるだろうか?
紙幣か現物資産か
こうして人々は「元預かり証」がただの紙切れに過ぎないという当たり前の事実に徐々に気づいてゆく。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏の発言を思い出したい。
われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。
紙幣は食べられない。
そして食べられるものとは何か? 高騰している小麦などの農作物であり、その主要生産国はロシアである。
そのロシアが重要なのは紙幣ではなく現物資産だということに気づいている。しかもその上で借金であったはずのゴールドを返すと言っている。一方で日本政府はいまだに紙幣を刷っていて、盗んだゴールドのことは忘れてほしいと思っている。日本はもう駄目だろう。
結論
このように考えれば、西側とロシア、通貨に関してまともな思考がどちらであるかは明らかだろう。そして金融市場はその観点からルーブルを再評価している。それがルーブルがウクライナ前の水準を越えて上昇(以下は下方向がドル安ルーブル高)している理由である。
メディアによるバイアスを排除して物事を考えることは投資家にとって非常に重要である。
はっきり言うが、ウクライナをお花畑だと思っている人々は、戦後に北朝鮮をお花畑だと思っていた人々に似ている。
彼らでさえもウクライナが昭和天皇をナチス扱いし始めたことで正気に戻り始めているが(彼らは何故いつも最初から気づかないのだろう?)、損得勘定をシビアに見る金融市場はもっと厳しい判断を西側とロシアに対して下すだろう。
このロシアの動きは人々が紙幣を捨てて現物資産に走る巨大トレンドの最初の一歩に過ぎない。
しかし付け足しておくが、それは長期トレンドである。短期的にはこれからの株価暴落に金相場なども一定の影響を受けるだろう。それについては以下の記事を参照してほしい。