世界最大のヘッジファンド: 人々がどんどんインフレマインドに変わってゆく

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がYahoo! Financeによるインタビューで物価上昇という大きなトレンドについて語っている。

世界中で物価高騰

インフレが世界経済を襲っている。正確には現金給付と脱炭素政策とNATOの対ロシア戦略が人々を襲っているのだが、人々はむしろそれらのものを好んでいる。

自民党を再選させた日本人のように、人間は自分を害するものを好むものだから、それ自体は自然現象である。

だがインフレを恐れながらインフレを生じさせている原因を好む人々の行動は、インフレをますます悪化させてゆくだろう。

ダリオ氏はこれをパラダイムシフトと呼んでいる。彼は次のように言う。

パラダイムシフトが始まっている。人々の考え方がどんどん変わってゆく。

低インフレの時代が終わったのである。

そもそも政府の言うデフレ脱却は笑い話に過ぎない。大学では経済学部で学部生が最初に習うような話なのだが、デフレとは需要より供給が勝っている状態で、つまりはものが十分にある状況である。インフレとは需要に対して供給が足りない状況で、ものが不足している状態である。

つまりインフレを好むということはものが不足している状態を好むということで、今まさに人々の望み通りにものが不足している状態が起きているわけだ。

望み通りになって良かったではないか。人類には本当に馬鹿しかいないのではないかと思う。

インフレという新たなパラダイム

さて、誰が何を言おうがインフレは進んでゆく。この新たな世界では何が起きるだろうか。ダリオ氏は次のように説明する。

これまでは、人々は低いインフレに慣れていた。その状況下では人々は債券や現金を保有していた。それがやり方だった。

人々は何も心配していなかったし、家を買い急いだりはしなかった。会社も在庫の量を増やす必要性などを心配したりはしなかった。

しかしそれは変わり始めている。以下の記事で書いた通り、アメリカでは既に住宅価格が年率20%近い上昇率となっている。

住宅価格の上昇は時間差で家賃に転嫁される。だからアメリカ人は急いで家を買っているのである。

そしてダリオ氏によると、このトレンドはますます強くなってゆくだろう。彼は次のように説明する。

一度シフトが始まると自己強化プロセスが始まる。これまではみな債券を持っていた。債券は40年間強気相場だった。債券を保有することに何の問題もなかった。

しかしパラダイムシフトが起きると、新たなパラダイムにおけるトレンドを強化する行動の変化が生じる。

債券は誰かの借金であると同時に誰かの資産なので、人々が債券を売り始めるとその代わりに買うものは何だろうか。

住宅については上で述べたが、アメリカでは事態はもはや住宅バブルだけの話ではない。消費者物価が7.9%で上昇しているアメリカではインフレは既に消費者を悩ませており、貯蓄を削ってでも物価が上がる前にものを買おうとしている消費者の姿が統計に表れている。

日本ではまだインフレは始まったばかりだ。投資家は去年からコモディティを買ってインフレに備えているが、日本の一般消費者はまだほとんど何にも気付いていないだろう。

だがこれが去年から今年、今年から来年のトレンドになってゆくと、多くの日本人も流石にインフレに気付き始めるだろう。

保存の利く食料は蓄え始めるかもしれないし、家を買おうとする人も増えるかもしれない。インフレが人々を動かし、人々の行動がインフレを増強してゆく。トレンド自身がトレンドを強化する。それが自己強化的なトレンドである。そしてますますインフレは酷くなってゆく。

結論

だからFed(連邦準備制度)のパウエル議長が去年「インフレは一時的だ」と語ったとき、それはもうどうしようもなく完全に間違っていたのである。

それはインフレが去年のうちに収まるかどうかというタイムフレームの予測が間違っていたという意味ではない。インフレがそもそも自己強化的だという経済学的事実をパウエル氏は見落としていたのであり、それは経済の仕組みが何も分かっていないということである。

そして今、中央銀行は金利を現在のインフレ率よりも4%以上も低いところに利上げするという「緩和」政策を行っている。

経済学者ラリー・サマーズ氏の言うように最終的にはより急激な利上げに追い込まれるのだが、Fedがこうして呑気に低金利している間にインフレはどんどん酷くなるだろう。

そしてそれを支持しているのは有権者だという事実を忘れてはならない。日銀が今何をしているかについては、本当にただの笑い話でしかない。対価として人々はインフレを受け取るだろう。彼らはそれを望んでいたのだから、それを喜ぶべきなのだ。