サマーズ氏: ウクライナ問題で 「インフレは一時的」が「インフレは原油のせい」に進化する可能性

民主党が民進党になるようなものだろうか。(今の名前は何だっただろうか?)

アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでロシアのウクライナ侵攻で生じているエネルギー価格の高騰にコメントしているので紹介したい。

ウクライナ侵攻とコモディティ価格

ロシアがウクライナに攻め込み、株式市場は一時下落、エネルギー価格などのコモディティ価格は高騰した。

株安については、ウクライナの命運と米国企業の株式の間には何の関係もないことを既に述べておいた。

では原油や農作物などのコモディティはどうだろうか? とりあえず原油価格のチャートを掲載してみよう。

原油は一時上昇したが下がった。一方でロシアが供給しているヨーロッパの天然ガス価格は跳ね上がっている。

筆者もヨーロッパの天然ガス以外に大した影響があるとは思っていないが、エネルギー価格の上昇はウクライナ問題が米国株に影響するという主張よりは根拠があるだろう。

しかし結局、西洋諸国は原油と天然ガスに依存している一方で、ロシアは長年の経済制裁のせいで欧米の経済からほとんど独立して生きてゆくことを学んでいる。経済制裁は無意味であるどころかロシアを強くしたのである。そしてプーチン大統領が欧米に銀行口座を持っているわけがないだろう。

サマーズ氏の懸念

さて、コモディティ市場のこうした動きを受けてサマーズ氏が懸念するのは、これまで「インフレは一時的」と言い続けていたパウエル議長やワシントンの政治家の動きのようである。彼は次のように述べている。

チーム名「インフレは一時的」がチーム名「インフレは原油による供給ショック」に進化する危険性がある。そうなれば、彼らにとって物価高騰を抑えるために必要な手段を行わない言い訳になるかもしれない。

ウクライナ問題と株価の記事でも述べたことだが、経済には無数の要因がある中で、インフレや株価の変動などの本当の原因を特定することは容易ではなく、しかもそれを取り間違えることは極めて危険である。パウエル氏らは事実、インフレの原因はコロナ禍からの景気回復による一時的なものだと言い続け、結果インフレ率が7.5%に上がるまで放置してしまった。

原油高とその他のインフレ

サマーズ氏が懸念するのは、ここで原油高という要因が現れ、チーム「インフレは一時的」が息を吹き返すことである。

これは1970年代のアメリカの物価高騰で起こったことのデジャヴである。1970年代のインフレにおいても、中東戦争やイラン革命などによる1973年と1979年のオイルショックが重なっている。

戦争状態が原油高を引き起こすことは状況によっては合理的であり、原油高は確かにインフレの大きな原因になる。

だがサマーズ氏が言っているのは、それはインフレ抑制のための金融引き締めの手を緩める理由にはならないということである。サマーズ氏は次のように続ける。

だがそうなれば最終的にはより酷い経済ダメージを引き起こし、国内の貧困層の雇用を減らすことになる。そのような完全に持続不可能な道を受け入れることはできない。

原油高によるインフレがあることは他のインフレがないことを意味しないし、戦争による原油高のあることは脱炭素政策による原油高のないことを意味しないからである。

今のところ2年物国債の金利は1週間ほど横ばいであるため、金融市場はウクライナ侵攻による利上げ停止を予想してはいないようである。

しかし万一それが起こった場合、アメリカの消費者は最終的に20%を超えるインフレを覚悟しなければならなくなるだろう。

結論

読者には周知の通り、筆者はスタグフレーショントレードの一環としてコモディティを買い持ちにしている。

この記事で買い持ちを推奨したコモディティの中で、ウクライナ問題で一番上がっているのは小麦である。

小麦の輸出は1位がロシア、ウクライナも3位前後には入っているのである。供給が少なくなるか、輸出が制限される可能性を織り込もうとして上下しているのだろう。

しかし基本的には筆者はウクライナ要因を気にしていない。メインシナリオはアメリカのインフレであり、ウクライナ要因でのボーナスがあればそれでも良いが、ロシア制裁の詳細がどうなるかを当てようとするのはギャンブルだろう。

株価についてはウクライナとは一切関係ないことは以前書いた通りである。次第に世界市場はウクライナのことから2022年の本来の問題へと興味を回帰させてゆくだろう。