サマーズ氏: ガソリンの価格高騰対策でインフレ悪化へ 現金給付の悪夢を人はもう忘れている

アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がガソリン価格高騰とその対策について政府を非難しているので紹介したい。

ガソリン価格高騰

ガソリン価格が高騰している。その原因は勿論原油価格高騰であり、その原因は現金給付と脱炭素政策である。

特に原油価格に対しては化石燃料を採掘する業者への融資を禁止する脱炭素政策の影響が大きいだろう。業者が原油を掘れなくなれば価格が高騰するのは当たり前である。

原油価格のチャートは次のように推移している。

しかし各国政府はインフレの原因である自分自身を何とかしようとせず、新たな政策を繰り出そうとしているが、その新たな政策が更なる問題の火種となる。そして有権者は誰も異を唱えない。

さて、アメリカではガソリン税の減税が検討されており、日本では更に酷いことにガソリン購入への補助金が導入され、その大部分が消費者に届く前に消滅している(自民党の唯一の特技である)が、かねてよりインフレに警鐘を鳴らしてきたサマーズ氏はこうした政策について次のように述べている。

何処まで酷いアイデアが出せるか測定しているのだろう。

出来れば経済を使わずに自分の家で測定してもらいたいものだが、サマーズ氏がこう言うのは何故だろうか? 何故インフレ時にガソリン購入を補助してはならないのだろうか? それをわざわざ説明する必要があるのだろうか。

サマーズ氏はこう続ける。

政策によってガソリン価格が下げられると消費者の財力は増え、他の分野に消費をシフトする。よって他の分野で更なるインフレが起こるだろう。

当たり前である。インフレが問題になっている時に需要を喚起してどうするのか? フランスではインフレ対策で現金給付が行われている。馬鹿ではないのだろうか?

しかし政治家の目的は補助を出すことによって彼らに投票してくれる特定のセクターが増えることなのだから、彼らにとっては合理的な行動なのである。そしてそうしている間に経済はどんどん酷くなる。有権者は誰も止めない。

インフレの唯一の対策法

アメリカでは物価が高騰しているが、物価高騰への唯一の対策法は需要を抑えて生産を増やすことである。前回の記事でのカール・アイカーン氏の「生産しているCEOは高給でも構わない」の「生産」とはそういう意味である。

経営が上手く行っているなら、その人が大金を儲けることに異論はない。彼は確かに生産しているからだ。

だがまともに生産することなく紙幣の量だけ調節して事態を乗り切ろうとすると状況は悪化する。

インフレとは需要に対して生産が足りないということなのだから、生産を増やすどころか脱炭素政策で制限したまま原油購入に補助を行なったところで、原油が足りないのだから、無いものは無いのである。

市場はそれに対して価格高騰で罰を与える。価格が上がると需要が減り、生産者はより生産しようとするので、次第に状況は軟化してゆく。資本主義が機能していれば状況は自然に改善される。

しかし政府が愚かなことをすればその市場原理が働かない。今の状況で政府は需要を増やして生産を制限しようとしている。需要と供給がどんどん歪んでゆく。共産主義の世界で経済がどうなるか、今人々は実体験しているのである。

結論

誰もレイ・ダリオ氏の警鐘を覚えていない。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

ダリオ氏の友人でもあるサマーズ氏は次のように述べる。

われわれは大衆受けの良い小手先の政策の結果がどういうものかを学ばなければならない。それは血糖値の上昇のようなもので、気分は良くなるかもしれないが、最終的に誰の政治的利益にもならない。

厳密に言えば、政治家の利益にはなるのだろう。

筆者は以前、東京五輪を強行した自民党を再選した日本人は殴られても次の日には忘れている人々だと書いたが、有権者の記憶喪失は続いているらしい。そういう人はどんどん殴られる。

サマーズ氏はこう続ける。

国民に配られた2,000ドルが酷い経済的ダメージをもたらしたことをもう誰も覚えていない。そうした政策は誰の利益にもならない。人々が一歩下がって何が正しいことかを考え直し、人気ある小手先の政策から少しでも遠ざかることが出来れば良いのだが。

株価が暴落してから売却を考え始める多くの人々と同じように、状況が最悪のところまで悪化しなければ記憶喪失は治らないだろう。株は買わなければ良かったのだし、現金給付も元々行わなければ良かったのである。