アメリカやヨーロッパにおける物価高騰を抑えるために中央銀行は利上げを余儀なくされており、2022年の株式市場では今年何回の利上げが行われるのかということが問題になっている。
だが実際にどれだけの利上げが行われるのだろうか? それを考えるためには、アメリカで過去に同じ規模のインフレが起こった時にどうだったかを調べるべきだろう。
過去のアメリカのインフレ
ここの読者には言うまでもないことだが、アメリカで過去に物価が高騰したのは1980年にかけてのことである。
しかし以下の記事に書いたように、当時のインフレは3回の波に分けて襲ってきた。
この中で最大だった第3波は15%近くものインフレとなっているので、現在の7.5%のインフレと比べるにはいささか適切ではない。
よって今回は当時のインフレ第1波、1969年にかけてのおよそ6.4%の物価上昇の時について書いてみよう。
当時のインフレの原因
そもそも当時のインフレの原因が何だったかと言えば、1965年から始まったベトナム戦争での戦費増加により財政赤字が拡大し、拡大した財政赤字の資金は景気刺激としてアメリカ国内に流入したことである。当時のアメリカのGDP比財政収支のチャートは次のようになっている。
現在のアメリカの財政赤字はGDPの12%なので、それに比べれば可愛いものだが、重要なのはこのタイミング(ベトナム戦争)からアメリカの財政赤字拡大トレンドが始まったということである。これが今の莫大な財政赤字の萌芽なのである。
しかも財政支出によるインフレ開始というのは現在の状況に似ている。きっかけが戦費であれ現金給付であれ、ばら撒かれた資金は経済に対してインフレ的に働く。
このインフレ要因、当時で言えばベトナム戦争が10年続いたことも、コロナが何年も続いていることと似ているだろう。
どちらの場合も政府によって恣意的にばら撒かれた資金が格差を拡大し、ばら撒きにもかかわらず豊かにならない人々が更なるばら撒きを求める。しかし問題は解決しないどころか悪化する。彼らが学ばなければならないのは、政府が本当に困っている人々に役立つ形で資金をばら撒くことはないということである。
こうして政府から降ってくる10万円を求める人々にインフレという適切なご褒美が与えられるのは今も昔も同じである。人々はたった10万円のために何十万も損をする。アメリカでは30万円以上が降り注ぎ、代わりに貯蓄の7.5%が目減りしたわけである。おめでとうと言う他ないだろう。
1969年のインフレ第1波
このように今と同じ財政支出によって起こったのが1969年にピークを迎えるインフレ第1波である。この時のインフレ率の頂点は6.4%で、現在の7.5%よりも低い。
ここからが今回の記事の本題である。当時、このインフレ率を抑えるために政策金利をどれくらい上げる必要があっただろうか? インフレ率と政策金利を並べると次のようなチャートになる。
第1波のところを見ての通り、1969年の6.4%のインフレを退治するために必要だった政策金利の水準は9%である。
当時の金利水準が元々高かったことを考慮し、利上げ幅で考えるとしても4%から9%で5%の利上げとなっている。そして、今のインフレ水準はまだピークでないにもかかわらず、当時のピークよりも高い。
現在の市場ではFed(連邦準備制度)は年内すべてのFOMC会合での利上げが必要になるとか、1回の会合で2回分の利上げが必要になるとか言われている。
しかしそれでも政策金利は1年後にようやく2%かそこらに達するに過ぎない。当時の5%利上げには遠く及ばない。それで当時よりも強力なインフレ圧力がどのように緩和されると言うのだろうか?
不況から緩和再開へ
筆者や著名投資家の推測によれば、現在の株式市場が耐えられる利上げ幅はせいぜい1%である。
だが少し前まで厳しいものと考えられていた、インフレ退治に1%(4回)の利上げが必要という話も今では笑い話になってしまう。
2018年のように中央銀行が降参して利上げを諦め、株安が収まるというシナリオもない。2018年には中央銀行は自主的に利上げをしていたが、今ではインフレが利上げを緩めることを許さないからである。
もしその程度の利上げでインフレが収まるとすれば、その可能性は1つしかない。株価が暴落して不況になり、その結果デフレになるというシナリオである。
1969年のインフレにおいても結局は利上げによって景気後退に陥り、その後唱えられた緩和再開こそが悪名高いニクソンショックである。
ドル紙幣は元々中央銀行に持っていけばゴールドと交換してもらえるゴールドの預かり証のようなものだったのだが、ニクソン大統領がそのゴールドとの交換を取りやめると発表したのである。
政府が国民から預かっていただけだったはずのゴールドは何処に行ったのだろう? ともかくこの時から紙幣は正真正銘ただの紙切れになったのだが、何故か人々はこの何の効力もない紙切れを未だに後生大事に持ち続けている。現金給付への支持も含めて、人々の行動は筆者には本当に謎である。
結論
ということで、1%や2%の利上げで市場が騒いでいるのはそもそも笑い話に過ぎず、その規模の利上げでも株価は暴落するだろうがインフレだけが勝手に収まることはなく、最終的には景気後退から緩和再開を経て更に規模の大きいインフレ第2波へと続いてゆくだろう。
しかし人々は何故株から逃げないのだろう? 同じく中央銀行の金融引き締めで株価が暴落した2018年終盤にも、筆者は全く同じことを思っていたのである。他人のやることは本当に理解不能である。