引き続きDoubleLine Capital主催の会議より創業者ジェフリー・ガンドラック氏の相場観を紹介する。今回は長期金利の水準とドルの下落に関する部分である。
高くならない長期金利
前回の記事でガンドラック氏は、株価は債券と比べるとまだ割高ではないと主張していた。
金融の実務家は通常、株価水準を国債の魅力との比較で考える。株式に投資して値上がりと配当を貰うのが良いか、それとも長期国債に投資して数パーセントの金利を貰うのが良いか、投資家は考えるからである。
国債の金利が高ければ株式よりも国債を買おうということになり、株価にはネガティブになる。逆に金利が低ければ国債に投資しても仕様がないということになり、株価にはプラスとなる。
ガンドラック氏は今回、この話をもう少し掘り下げている。
株価が金利水準に比べて高くないという話は難しい問題だ。何故ならば、株式のリターンと比較対象となる金利は10年物国債だからだ。
10年物国債はほとんど上昇していない。10ヶ月前よりむしろ下がっている。
アメリカの10年物国債(つまり長期金利)のチャートは次のようになっている。
この会議の収録直後にようやく10ヶ月前より高い水準に達したのだが、金利はインフレ率と実質金利の足し算で出来ており、7%のインフレと金融引き締めがある中で長期金利がほとんど上がっていないという事実を考えてみてほしい。
ガンドラック氏は次のように続ける。
わたしも顧客にいつも聞かれる。インフレにもかかわらず何故金利はこんなに低いんだ?
これは複雑な問題だ。金銅の価格比のような指標の歴史的水準を考えると、10年物国債の金利は少なくとも3%以上であるべきだ。
だから中央銀行が金利を上げても10年物国債の金利は上がらないかもしれない。
それが恐らく、アメリカ経済のお先が真っ暗であるにもかかわらず株価が史上最高値付近を維持している理由なのだろう。同じく債券の専門家であるマイナード氏が同じ主張をしていることは興味深い。
ドルが下落していない理由
しかし利上げにともなって短期金利は上がり続けるだろう。以下の記事で筆者が予測した通りの状況である。
そして長期金利は短期金利の上昇に押されることになる。
また、ガンドラック氏がアメリカの低金利の理由としてやり玉に挙げたのが日本とヨーロッパの投資家である。
多分、日本やヨーロッパの投資家がアメリカの資産に投資をする時にヘッジをしていないのだろう。ドル建ての資産を買い、そして当分の間為替ヘッジをしないことを選択する。
何故か? トレンドはフレンドだからだ。「ドルは下落していないし、去年はむしろ上がったじゃないか?」。彼らはそれに頼っている。
日本やヨーロッパの投資家たちがアメリカの10年物国債を為替ヘッジなしで買う。ドルが下落しないという前提に根拠はない。これがドルを支えているというわけである。
ドルと株価が同時に暴落する
ガンドラック氏は次のように続ける。
だがそれはいつか逆流する。量的緩和が終了し、10年物国債の金利が上昇するとき、すべてのリスク資産に大きな問題が生じる。
金融引き締めが本格的となるとき、そして米国債や米国株の価値が下がり始めるとき、ドルへの資金流入は逆流するだろう。
今や中央銀行は量的引き締めさえ考慮に入れている。3ヶ月前までは量的緩和を当面続けると言っていた。それがすぐに6月までに緩和停止、3月までに緩和停止となり、バランスシートの縮小を議論するとこまで来ている。
これは2018年終盤と同じシナリオだ。それが過大評価されたすべての資産を崩壊させる。
ガンドラック氏は当然ながら、バランスシートを縮小する量的引き締めで世界同時株安が起こった2018年末のことを言っている。ここではリアルタイムで実況していたから、覚えている読者も多いはずである。
そして2018年と同じように、株価の下落がドルへの資金流入を逆流させ、多くの人がドル資産を投げ売りし、ドルを投げ売ることになる。それがドル下落のタイミングとなるということである。
為替ヘッジなしで米国株や米国債に投資している日本やヨーロッパの投資家は全滅になるだろう。
彼らの多くは銀行や金融庁にそそのかされて投資信託を買ったり、インデックス投資は安心と何の根拠もなく信じたりしているのだろうが、中央銀行さえ素人なのだから、銀行や金融庁に何が分かるだろうか。よく考えてみてもらいたい。