中国最大級の不動産ディベロッパー恒大集団はGDP2%分の負債を抱えたままついにデフォルトし、中国の不動産バブル崩壊も既にかなり進行しているのだが、日本や欧米ではほとんど気にもされていないようである。しかしここでは粘り強く報じ続けていこう。リーマンショックも最初はこのように無視されたからである。
中国の不動産バブル崩壊
中国の不動産市場の現状を整理しておこう。まず恒大集団についてはオフショア債券の利払いがついに猶予期間を過ぎても払えなくなり、公式に格付け会社によってデフォルト認定されている。本人が認めていないのでデフォルトしていないかのような報道もあるが、借金を期限までに払わないのはデフォルトである。
不動産価格については、まず恒大集団デフォルト前から一部地域で駐車場の価格が「白菜並み」になっているという中国の報道があった。
そしてそれが11月の統計にも表れており、新築住宅の平均価格は前月比-0.3%のマイナス成長となっている。あまり大きい下落に見えないが、それでも6年ぶりの下落幅であり、住宅販売は全体で-16.3%のマイナス成長となっている。住宅市場が急速にしぼんでいることが分かる。
住宅バブルの崩壊は、価格の下落よりも全体の売買金額の縮小の方に大きく表れているように見える。これらの数字のからくりは、当局は価格を制御することは出来るが、売買を無理矢理成約させることは出来ないことに起因する。何故ならば、中国では値下げ禁止令が出ているからである。
住宅の値下げ禁止令
住宅価格が下落して困っているから価格を統制してしまおうというわけである。恒大集団の株価が下落したから取引停止にしてしまおうという発想と同じである。
この値下げ禁止令は当初、地方都市において出されていた。
中国の不動産バブル崩壊は地方から始まっている。これには2つの理由がある。先ず第一に、バブルが弾ける時にはすべての資産が同時に下落するのではなく、その市場のメインの資産は最後まで下落せず、端にあるマイナーな資産から下落してゆく。2018年の世界同時株安でもそうだったし、2022年の暴落タイミングを予想するための「炭鉱のカナリア」という考え方も同じである。
北京や上海などの一等地はバブル崩壊でも最後まで持ちこたえていたのだが、体力のない地方都市の不動産から値段が下がってゆく。これが第一の理由である。
第二の理由は、中国政府が無理矢理地方都市に多くの住宅を建設しようとしていたからである。
中国政府は以前から「農村部の都市化」を標榜した政策を行なってきた。表向きはインフラ整備の遅れた地方の都市化が目的だったが、これには裏がある。中国では土地は国の所有となっており、それを不動産ディベロッパーが借り受ける形で不動産を開発する。
つまり土地の出処が政府であるために不動産バブルからは政府も利益を得ていたのであり、無理矢理開発を進めることで地価を上げて泡銭を得ようとした。
それで開発された地方都市に農民が田舎から移って経済成長することを中国政府は皮算用していたわけだが、農民の方は動きたくなかったのか、農民が田舎から地方都市に移ってくることはなかった。余計なお世話だということである。
それで地方都市から不動産価格が下落し、まず地方都市が値下げ禁止令を出した。それが今や南京や天津などの都市部にも波及している。
天津市では15%を超える値下げが禁じられている。価格の下落幅は前月比0.3%ではなかったのだろうか? 15%の下落を禁じるということは、15%下落しているということである。統計よりも当局の動きの方が中国の不動産市場の実体を雄弁に語ってくれるのである。
共産主義的政策の終焉
ということで、ゴーストタウンを作り上げた中国の地方都市から始まった不動産バブルの崩壊は今や都市部にも到達しているらしい。
これは、消費者が必要だと思うものを事業者が提供する資本主義経済とは正反対の、政府が「これを作る」と決めて経済を要らないもので満たしてゆく共産主義的政策の崩壊である。
ここまで読んで「やっぱり共産主義の中国だから」と思った読者は多いかもしれない。しかし中国と日本とアメリカのGDPに占める政府支出の割合を並べてみると次のようになる。
- 中国: 11.9%
- 日本: 14.2%
- アメリカ: 18.7%
日本とアメリカの方がよほど共産主義的な経済なのだということを日本人は理解しているだろうか?
オリンピック競技場のように、政府が不要なものをどんどん作り、誰も要らないから価格が下がってゆくというのが日本やアメリカにおけるデフレの元凶である。日本政府は自分でデフレを作っておきながらデフレを退治するなどと供述し、そして今やインフレによって見事にデフレと経済成長を退治しつつある。イギリスだけがそこから早々と退散しようとしている。