アメリカの中央銀行であるFed (連邦準備制度)は12月14日から15日まで金融政策決定会合であるFOMC会合を行い、前回の会合で決定したテーパリング(量的緩和縮小)を加速することを決定した。
インフレ対処を迫られる中央銀行
Fedはインフレに押されて金融引き締め側に動いている。このままでは物価上昇が止まらないからである。テーパリング加速自体もタカ派的な決定だが、パウエル議長自身が事前に宣言していたためサプライズではなかった。
いつも通り声明文が前回からどう変わったのか見てゆきたいが、注目されるのは「インフレは一時的」の文言がついに削除されたことである。代わりに「雇用は直近数ヶ月で力強く、失業率はかなり低下した」という労働市場に強気のコメントが挿入された。
筆者や著名投資家らが1年前から警告してきたインフレを1年越しにようやくパウエル氏が認めた形となる。あまりに遅すぎる。
莫大な現金給付をすれば物価が高騰するという単純な事実を認めるのに1年掛かった理由が筆者には全く分からない。
インフレで利上げ加速へ
さて、より重要なのは声明文よりも、FOMC会合参加者のそれぞれの今後の利上げ見通しを纏めたドットプロットである。
前回のドットプロットは9月に発表されており、その当時の来年の利上げ予想は次のようになっていた。
- 利上げ2回: 3人
- 利上げ1回: 6人
- 利上げなし: 9人
全体としては来年の利上げはないか、あっても1回というところだろうか。
しかし今回の会合では次のように変わっている。
- 利上げ4回: 2人
- 利上げ3回: 10人
- 利上げ2回: 5人
- 利上げ1回: 1人
- 利上げなし: 0人
2022年内に利上げ3回が多数派となっている。
金融市場の反応
利上げなしから利上げ3回への変化は極めてタカ派である。しかし金融市場はいずれ中央銀行がインフレに押されて利上げを強要されること事前を織り込んでおり、今後の利上げ見通しを反映して推移する2年物国債の金利はFOMC会合に先んじて上昇していた。
したがってFedがこの金融市場の予想を正しいと認めた形となる。もう何年も中央銀行は金融市場の後追いをしており、自分で金融政策をコントロールする能力はないのである。
では利上げせざるを得ないということを認めた今回の会合後の見通しは、Fedと市場で一致しているだろうか? シカゴの金利先物市場によれば市場は2022年末までに3回の利上げを想定しているので、市場とFedの予想はようやく一致した。というかFedが金利先物市場を見て回数を決めたのだろう。
金融市場の反応
非常にタカ派のFOMC会合となったにもかかわらず、この結果を受けて株式市場は上昇した。米国の株価指数S&P 500のチャートは次のようになっている。
ほぼ史上最高値圏である。
何故株式市場はタカ派のFOMC会合にポジティブな反応を返したのか? 第一には不安材料だったFOMC会合をとりあえず突破したということもあるだろうが、2018年に実際そうなったように、利上げが進めば株式市場は間違いなく崩壊する。
Fedが金融市場に比べて間違っているということを見た後には、市場は常に間違っているという事実を投資家は見なければならない。実際、2018年には投資家の予想を遥かに超えて9回の利上げが行われた後に株価はようやく暴落したのである。
だから市場が最後の最後まで利上げを甘く見続けることもいつものことだと思わなければならない。
一方、市場の反応が明らかに2018年よりも弱いことも事実である。2018年には長期金利は最後まで上がり続けたが、今回は既に頭打ちしている。
2018年には利上げをしても経済は強いという信仰があったが、今回は債券市場は既に景気後退を予想し始めている。
高い金利は株式市場にとってマイナスになるので、長期金利が上がっていないことは株価にとっては良いニュースである。
一方でもう1つの事実も投資家は忘れてはならないだろう。金利が上がらなければインフレが止まらないのである。残念ながらインフレを表明した後も金利が上がっていないので、現在止まらくなっているインフレが止まる要素が今のところない。
このままではインフレは行くところまで行ってしまうのではないか。そうして結局、強力な金融引き締めをいつかは強いられるのである。
もはや株価暴落はタイミングの問題となっている。しかし物価高騰の消費者への影響はもっと大きいものになるだろう。すべてインフレ目標という非科学的なでたらめのせいなのである。