前々回に引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏のCNBCによるインタビューを取り上げたい。
オミクロン株で株価下落
株価が下がっている。引き金になったのは南アフリカで発見された新型コロナウィルスのオミクロン株で、変異が多いことから既存のワクチンの有効性が疑われている。
株式市場はどうなっているかと言えば、今のところは中期ダウントレンドというところだろうか。以下は米国の株価指数S&P 500のチャートである。
投資家はどうすべきだろうか? すぐにでも逃げるべきだろうか? 司会者にそう尋ねられたダリオ氏は次のように答える。
それは愚か者のやることだ。株式市場があり、いつ入るか、いつ出るかのタイミングを考えるとしよう。
新しい変異株がどうなるか、他のことがどうなるか予想する必要がある。しかし多くのことは多くのほかのことに依存しており、互いに影響し合っている。
金融市場には「頭と尻尾はくれてやれ」という格言がある。
筆者としては短期的なタイミングは出来る限り予測すべきだとは思うが、それでも完璧にタイミングを読むことは優れた機関投資家にも無理である。
例えば筆者は幸いにも2018年の世界同時株安を予想できたが、それでもタイミングは完全な天井から数週間ずれていた。当時以下のように書いている。
もしかしたら23,000円が天井となるのかもしれない。そうでないかもしれない。
いずれにしても、重要なのは短期的な値動きではなく、ここが大天井であるという相場観が当たるかどうかである。
特にダリオ氏はコロナの第1波を過小評価して大損を被っているから、タイミングに頼った取引はやりたくないのだろう。
オミクロン株に対処する
ではどうすれば良いか? ダリオ氏は投資家がオミクロン株に対処する方法を次のように説明する。
投資家は2つのことに気付く必要がある。まず、現金は安全な投資先ではない。現金の価値はインフレで目減りするからだ。金利も付かない。額面価値が変わらないから良さそうに見えるだけで、実際には毎年数パーセント減価している。現金から離れるべきだ。
「現金はゴミ」というのはダリオ氏が数年前にダボスで発言して以来有名になった言葉である。
彼はその後金本位制を維持できなくなったニクソンショックに言及しているように、紙幣印刷によるインフレについて何年も警告していたのである。そして実際に現金はゴミになりつつある。物価高騰が進めばいくら現金を持っていっても商品は買えなくなるだろう。
しかし現金にも頼れず株価が下がっている現状ではどうするべきなのか? ダリオ氏は次のように続ける。
次に、バランスの取れたポートフォリオを構成すべきだ。
金融市場では、何かが起これば別のところで別のことが起きる。例えば最近の市場では、経済成長が危ぶまれ株価が下がった場合、緩和が行われる可能性が高いので債券市場が上がる。
他にもゴールドがどう動くかなど、市場で何が起こるのか毎日見ていれば、そうした関係性が見えてくる。市場では資金はなくなるというよりは移ってゆくので、バランスの取れたポジションを組むことが一番大切だ。
ダリオ氏は簡単に言うが、はっきり言えばこれは機関投資家にとっても一番難しい仕事である。
簡単に言えば株価が下がった時にも価格が上がるものを買えば良いのだが、現状では具体的にどういったことが出来るだろうか?
バランスの取れたポートフォリオ
ここから先は筆者のポジションで具体的に説明しよう。オミクロン株の出現で株は下がったが、ここで言及してきた筆者のポジションの中には利益を上げたものもある。
一番分かりやすいのはユーロに対する安全通貨スイスフランの買い(つまりユーロスイスフランの空売り)であり、元々下がっていたところにオミクロン株によるリスクオフが拍車をかけ、ユーロスイスフランは急落(ユーロ下落、スイスフラン上昇)を続けている。
通貨高を懸念したスイス国立銀行は介入を警告しているが、長期的なトレンドに影響を与えることは出来ないだろう。
他にはドル円の空売りである。ドル円については夏頃に見通しを書いている。
アメリカのインフレが止まらなくなれば最終的にはドルは下落する。しかしタイミングについては下落まで待たなければならない可能性があるが、反対方向に振れるリスクもそれほど大きくないとして次のように書いていた。
ドル円の下落はトランプ相場の場合も本格的には株式市場の下落を待たなければならなかったので、それがすぐに起こるかどうかは分からない。しかしもし起こらなかったとしても、トランプ相場の例を考えればドル円はそれほど上方向には行かず、110円から115円の間で留まるのではないか。そして最後には恐らく100円に向けて下落してゆくのである。
この予想は今のところ大体当たっている。何より、重要なのはドル円の空売りがリスクオンで損をしリスクオフで利益の出る取引だということである。
筆者は他にコモディティの買いポジション(中国リスクが少ないもの)を抱えており、それらは株価とある程度連動してしまうが、それらが下がった場合にもドル円の空売りが反対方向に作用してクッションになってくれるのである。そしてドル円の空売りも最終的にはそれ自身で利益を上げるだろう。
結論
ダリオ氏の言う「バランスの取れたポートフォリオ」とはこのようなものである。ダリオ氏は次のように述べている。
安全でバランスの取れたポートフォリオであれば、リターンを減らすことなくリスクを減らすことができる。
しかしどういう状況でどういうポジションを組み合わせるのか、それぞれのポジションの大きさはどの程度にするのかということは非常に難しい。というよりはそれこそが機関投資家の仕事である。
それはダリオ氏が言うほどに簡単なことではないのだが、個人投資家の読者も試してみて損はないものだと思う。
売買のタイミングについては以下の記事も参考にしてもらいたい。