ソロスファンドCEO: ESGはエネルギー価格を高騰させる

引き続きBloombergによるSoros Fund ManagementのCEO兼CIOドーン・フィッツパトリック女史のインタビューを届けたい。今回はエネルギー価格とインフレについての話である。

中国とヨーロッパのエネルギー危機

コロナ禍で一時はマイナスになった原油価格だが、その後上昇を続け今度はエネルギー価格の高騰が問題となっている。特に天然ガス価格はここ数ヶ月で倍以上になった。

特に中国とヨーロッパでは深刻な電力不足に発展しており、このまま行けば経済はただでは済まないだろう。

フィッツパトリック氏はこの状況を次のように分析している。

エネルギー価格の上昇は非常に政治的なものだと思う。ロシアはノルドストリーム2の承認を受けるために高い天然ガス価格を好むだろうし、中国のオーストラリア産石炭についてもそうだ。不買を宣言することで相手に罰を与えた。

ノルドストリーム2はロシアの天然ガス大手Gazpromが完成させた、ロシアからドイツまでをつなぐ天然ガスパイプラインである。天然ガスが高価で貴重になれば、当然ながらノルドストリーム2の価値も上がる。

また、中国とオーストラリア産石炭については次のように続けている。

中国政府が分かっていなかったことは、国内で使われる石炭の大半が国内生産だとしても、国内外価格差には影響するということだ。

彼女の上司であるジョージ・ソロス氏の次のような声が聞こえてきそうだ。

習氏は金融市場がどう動くかを理解していない。

中国の石炭価格の上昇はオーストラリアとの関係悪化だけではなく、習近平氏が推進する脱炭素政策の結果でもある。

そして中国政府の脱炭素政策は、より大規模に行われている中国政府の国内産業潰しの1つでしかない。結果として中国は深刻な電力不足に陥り、石炭の代わりにろうそくを使っている。

つまり脱炭素政策とは石炭の代わりにろうそくを使おうということだ。実際、脱炭素政策を強行しているところは、自身が産油国であるアメリカを除いて何処も電力不足に陥っている。

脱炭素政策

海外情勢を追っている読者は既に知っているだろうが、中国だけではなくヨーロッパにおいても電力価格が高騰している。いわゆる「再生可能エネルギー」の量を無理矢理増やして、石油や石炭を縮小させた上に原発も否定しているのだから当然の結果だろう。筆者はけむりも放射能も好きではないが、すべてを否定すれば残るのはろうそくである。

フィッツパトリック氏は脱炭素の問題について筆者と同じくプラグマティックな見方をしている。投資家として事実だけを淡々と眺めるということだ。彼女は次のように述べている。

興味深いのは、今後どうなるかを考えると、高価なエネルギーあるいは高価な化石燃料は、ESGの欠陥ではなく機能の1つだということだろう。

ESGは元々エネルギー価格を上げるものとして設計されている。化石燃料の値段を上げて、よりクリーンなエネルギーにシフトさせようということだ。

だから高いエネルギー価格は今後普通のものとなってゆくだろう。

菅氏や小泉氏が推進しようとしたようなエコ政策を進めれば日本でも遠からず電力価格高騰が深刻な問題となるだろう。

金融政策はインフレに効くか

こうしたエネルギー価格の高騰も一因となって、アメリカの中央銀行はテーパリング(量的緩和縮小)を始めようとしている。

恐らく11月のFOMC会合ではそれが発表されるだろう。

しかしフィッツパトリック氏はそれでインフレを解決できるのかどうか疑問だという。彼女は次のように述べている。

このインフレの大部分は供給側のインフレであり、金融政策が供給側のインフレに上手く対処できるのかどうかは明確ではない。

金融政策とは基本的に金利を操作する政策である。そして金利は借金をする人に影響がある。

借金は買い手と作り手の両方に作用する。住宅ローンや自動車ローンなど、買い手は借金をしてものを買い、作り手は借金をして設備投資をしてものを作る。

今問題になっている上記のようなインフレは、要するにエネルギーが不足しておりより多くのエネルギーを生産しなければならない状況である。

この状況で金利が上がり借金が難しくなればどうなるか? 作り手にとっては設備投資が難しくなり、生産量が落ちる。一方買い手は借金がどうなろうが電力は使わなければならないので、金利上昇が買い手の購買意欲を下げるかどうかは疑問である。

結果としてインフレ対策で行われたテーパリングが一面ではインフレを悪化させるということもありうるのである。フィッツパトリック氏は次のように続けている。

このインフレは自己強化サイクルに入る危険性がある。