ジョージ・ソロス氏が中国の不動産バブルを警告してから数週間、ようやくSoros Fund Managementの中国への相場観を再び聞けそうである。CIOからCEO兼CIOに昇格したドーン・フィッツパトリック女史がBloombergのインタビューに答えている。
中国の不動産バブル
このインタビューで彼女は中国の他にも様々な話題に答えているが、インタビューの中頃で司会者は「今話題になっているから」と恐る恐る中国の話題を持ち出した。
何故こういう態度になるかと言えば、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏を始め、著名投資家たちは何故か恒大集団の問題について語りたがらないからである。ダリオ氏は中国に大きな投資をしているから当然なのだが、ダリオ氏の時も聞き手は相当気を遣っていた。
しかし中国の話題を振られたフィッツパトリック氏は無邪気にも嬉しそうに次のように言う。
中国は今現在信じられないほど面白い話題だ。
彼女は投資家としてこれほど面白い状況はないといった表情で、筆者も心から同意する。
知的好奇心をそそる経済状況に抗うことはできない。投資家とはそういう生き物なのである。投資家がそうなれないのは、例えばダリオ氏のように自分がまずいポジションを抱えている時だけである。
そもそもこの問題を最初に公に指摘したのが彼女の上司であるソロス氏だから、彼女の反応は当然だろう。
フィッツパトリック氏は中国の不動産バブルについて次のように説明する。
計算方法にもよるが、中国では不動産投資がGDPの10%から29%ほどを占めている。しかし中国の人口は減少している。だから不動産市場の成長は間違いなく持続不可能だ。
そしてその持続不可能な不動産バブルは中国政府の規制強化によってほとんど既に崩壊している。それが恒大集団のデフォルト危機である。
これが単に中国の不動産市場の問題ではなく中国経済全体の危機であるのは、不動産投資が中国人の資産形成の中核を占めているからだ。中国には素晴らしい不動産を購入することが人生の目標だという人が多く、彼らは購入した不動産を頼りに暮らそうと計画している。恒大集団に代金を支払ったが物件が完成せずお金が返って来ない人の嘆きをもう一度掲載しよう。
この物件には人生分の貯金を注ぎ込んだ、物件が完成しなければわたしの人生は終わりだ
そして残念ながらこれはこの人だけの話ではないということである。
であれば、中国における不動産市場の崩壊とはつまり年金システムの崩壊のようなものであり、それが中国人の消費活動にどれだけの影響を与えるかということは想像に難くない。中国経済がそれほど落ち込めばアメリカや日本の景気にも影響は出る。しかしそこまで状況が進むまでには1年ほどタイムラグがあるので、誰もまだ事態の深刻さに気付いていないというだけのことである。
中国政府の態度
また、フィッツパトリック氏はこうした問題に対する中国政府の態度について次のように述べている。
習近平氏は経済を再構成しようとしている。しかし西洋の投資家たちが驚いたのは、彼が急激に規制のレベルを上げたこと、そして彼が目的のためにどれだけの経済的ダメージを受け入れようとしているかということだろう。
恐らくこれが問題の本質である。日本やアメリカで普通になってしまったように、バブルが自然に崩壊しかかって当局がそれを止めようとしている、という構図は中国にはない。中国政府は不動産市場のバブル膨張を許容しないために規制を強化し、その結果としてバブルが崩壊しかけている。
つまり、恒大集団の倒産、ひいては不動産バブルの崩壊は多かれ少なかれ中国政府が望んだことであり、これを中国政府が救済するのか、という観点はそもそもリーマンショック以降ゾンビ企業救済にあまりにも慣れてしまった日本やアメリカの観点から見た誤謬に過ぎない。
不動産バブルが出来る限り無用な被害をもたらさないように出来ることはするかもしれない。しかし中国政府は不動産バブルを崩壊させるだろう。
中国企業への投資
またフィッツパトリック氏はアメリカの株式市場に上場している中国株についてもコメントしている。中国企業はアメリカに上場することで西洋の投資家を利用していたが、もはやそれが必要なくなったと言う。
これまで20年間、中国のハイテク企業は西洋からの資本を受け入れ、その利益を西洋人に分配してきた。それは中国の利益に適っていた。
しかし中国はもはやそれを必要としていない。だから7,000億ドルを香港に戻すことが可能だし、そうするだろう。だからアメリカに上場している中国企業に投資している投資家は非常に警戒すべきだろう。
もはやアメリカの株式市場は必要なくなったということである。それはダリオ氏の言うようなアメリカの覇権終了論にも似ている。
だが実際にはアメリカと中国は共に沈みそうである。
フィッツパトリック氏はSoros Fund Managementが中国に対して強気か弱気かを聞かれ、慎重に次のように答えている。
現在中国に資金を置いてはいない。
当然だろう。上司のソロス氏の中国へのコメントも合わせて読んでもらいたい。