前回の記事では世界同時株安が何処まで下がりうるか、厳密に言えば何処まで下がれば中銀が動くかを書いたが、そこまで下がった場合、世界同時株安前から薦めている空売りについてはどうすべきかを議論する必要がある。
これまで薦めてきたポジションはショートの多いロング・ショートであるが、株安が中銀の動く領域に達した場合、ネット(差し引き)で空売り超となっている分については手仕舞ってゆく必要がある。この時に売りを減らすべきか買いを増やすべきかであるが、個別銘柄では現時点でもかなり魅力的なものがあるため、株式指数の空売り分を減らすよりは、個別株の買いを増やすことでロングを増やしてゆくのが良いだろう。
そこで、今回の記事では英国株、米国株、日本株、ドイツ株など先進国の株式市場から魅力あるものを紹介したい。
- Wizz Air (LSE:WIZZ、Google Finance)
Wizz Airはロンドン証券取引所に上場するハンガリーの格安航空会社である。欧州全域で運行し、原油安の恩恵を受ける。株価2047でP/E(株価収益率)が7.4と割安。年間売上上昇率21%。
- Teekay Tankers (NYSE:TNK、Google Finance)
原油タンカー運用会社。近年の原油の供給過剰でタンカーの需要急増。株価は6.87でP/Eが6.81。原油安の傾向を考えれば第三、第四四半期の数字は前年度より改善し、一株当たり利益は更に伸びると推定される。
- 平和不動産 (TYO:8803、Google Finance)
東京証券取引所の建物などを所有する不動産会社。日経平均の構成銘柄から除外されたため急落。株価が1278円でP/Eが19.76、P/B(株価純資産倍率)は0.53。日本の不動産株は消費増税のため長らく敬遠してきたが、東京の不動産市場は改善し続けているようであり、その前提では兜町に資産を持つ銘柄がP/B 0.5は安すぎるということになる。P/Eが20以下であるとは利回りが5%以上であることを意味し、REITなどと比べても割安である。
- Gilead Sciences (NASDAQ:GILD、Google Finance)
HIV予防薬のツルバダ、B型肝炎向けのヘプセラ、C型肝炎向けのハーボニー、インフルエンザ向けのタミフルなどを開発する米国の製薬会社。米国バイオ株の急落に巻き込まれ上値を抑えられている。株価が98.19でP/Eは10.31。P/E 8-10あたりで買うチャンスは再び訪れるだろうか。割安な薬品株は世界的な景気減速の影響を受けにくい。
- Fraport (XETRA:FRA、Google Finance)
以前より紹介している空港運営会社。フランクフルト国際空港などを保有する。原油安、ユーロ安、不動産価格上昇の恩恵を受ける。
補足
以上、ざっと紹介したが、概要しか書いていないので、購入の場合には各自リサーチをしてから購入してほしい。良い銘柄でも悪い銘柄でも出鱈目に下がるような相場であるから、買いのタイミングなども単純にここに書くことはできない。あくまで各自の判断で買いを入れられる銘柄の候補のリストである。また、当然ながら指数のショートポジションを持っていることを前提としているので、論点は指数と比べてパフォーマンスが良いかどうかである。
量的緩和で薬漬けにされた株式市場では短期的な合理性などとうに死んでしまったが、前回の記事で書いたように、方向性を失った米国株は、中長期的には、中央銀行のトリガーを引く地点まで行かなければ方向性を取り戻すことはできない。つまり、上がり過ぎて米国の急激な利上げを引き起こすか、下がり過ぎてどこかの中銀が追加緩和をしなければならなくなるかである。
ではどちらのトリガーが引かれるだろうか? 何度も述べているように、株式市場が上昇する要因は世界的に存在しない。したがって下方向がメインシナリオである。
上昇する合理的理由がないことと実際に上がらないことは必ずしも等しくはない。理由がなくとも上がるのがバブルというものである。しかし、株が上昇する場合にはFed(連邦準備制度)が利上げのチャンスとばかりに金融引き締めに動くだろう。
安値のドル買いと高値の株式空売りというこれまで説明してきた戦略で、どちらに動いても利益が出るように構えておくのみである。ドル円については前回の急落時に説明してあるので、そちらを見てほしい。