サマーズ氏: スタグフレーションが近い

引き続きBloombergによるマクロ経済学者ラリー・サマーズ氏のインタビューである。今回はマクロ経済学者らしくアメリカのインフレと経済成長率の話である。

アメリカのインフレ

現在のアメリカの状況はこうである。コロナ後に日本以上の規模の現金給付が行われたことによってアメリカでは物価高騰が始まっていた。

しかし3回行われた現金給付が今年の3月に打ち止めになると、途端に消費やインフレ率は鈍化を始めている。

経済刺激策に依存していたアメリカ経済の実情が明らかになったわけである。

こうした状況で懸念されるのが、インフレと景気後退が同時に起こるスタグフレーションである。サマーズ氏は次のように説明している。

これから経済はスタグフレーション的になってゆくだろう。労働力不足や供給制約によって直近の3四半期でそうなったように、わたしの考えではこれからインフレ圧力が強くなる一方、経済成長は今後3四半期で減速してゆく。

サマーズ氏はインフレが弱まらない一方で経済成長は減速すると言う。また、この問題が経済の需要側にあるのか、供給側にあるのかについて次のように述べている。

心配の種もある。驚いたのだが、ミシガン州での調査によると、人々は今は自動車や住宅を買うのに良いタイミングではないと考えている。これは経済の需要側におけるネガティブなサインだ。

アメリカでは自動車も住宅も価格が上がっている。

自動車は半導体不足によって価格が上がっているから当然なのだが、インフレであるにもかかわらず人々に購買意欲がないということは、消費が本当の意味で強いから物価が上がっているわけではないということである。

こういう状況では、現金給付などで消費を無理矢理持ち上げている間は良いのだが、それがなくなると途端に消費は弱くなり、しかもインフレは経済成長ほどは減速しないだろう。

こうした状況はやはりスタグフレーションを彷彿とさせる。サマーズ氏は、スタグフレーションが近いのかと聞かれて次のように述べている。

1970年代のスタグフレーションという意味なら、まだまだ距離はある。しかしインフレと生産の伸びが同時に悪化するスタグフレーションという意味なら、かなり近いと言えるだろう。

1970年代はアメリカでインフレ率が最終的に15%にも達した物価高騰の時代であり、現金給付を行なってもまだその数字には距離がある。

しかし1970年代にしてもいきなりその数字まで飛んだわけではなかった。通常のスタグフレーションの定義に近いかということであれば、サマーズ氏の答えはイエスである。

スタグフレーションか景気後退か

しかし実際にはスタグフレーションになるかどうか、もっと言えばインフレ率がどうなるかということは一番の問題ではないだろう。一番の問題は、景気を持ち上げようとすれば経済成長よりもインフレが持ち上がり、景気刺激を止めればインフレよりも実質経済成長率が下がるということである。

現金給付のような景気刺激をもう一度行えば実質経済成長率もある程度は延びるだろう。しかしその時にはインフレ率は今よりも更に高騰することになるだろう。

アメリカ経済は遂に緩和で物価が高騰する局面に入ったのである。「デフレを退治する」などと意味の分からないことを言っていた自称経済学者たちはいずれデフレの有難さを思い知ることになる。デフレがあったから永遠に緩和を続けられたのである。

結論

ということで、中国経済に続いてアメリカ経済の終わりも近いようだ。

ちなみにこの状況は債券投資家ジェフリー・ガンドラック氏によって既に予言されていた。

優れたファンドマネージャーらには最初から最後まで見えているのである。

投資戦略について言えば、以下の記事で説明してある。

しかし金価格が下がってきたことで、金相場にも注目すべき状況となっただろう。

株価下落やテーパリング(量的緩和縮小)で金価格が更に下がり、経済が沈んでインフレを気にせず米国政府や中央銀行が追加緩和を行おうとした時が金価格の底値である。

アメリカが追加刺激なしで景気後退よりも追加刺激ありの物価高騰を選ぶならば、金価格はそこから暴騰することになる。投資家は準備をしておくべきだろう。