世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏のインタビューを紹介したい。今回はアメリカの金融政策の話である。
金融引き締めは何処まで続くか
9月22日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)はテーパリング(量的緩和縮小)の開始発表を見送ったものの、年内の開始を確認し、来年の利上げを示唆する形となった。
だからこのダリオ氏のインタビューは、会合前に行われたものの、内容は非常にタイムリーだろう。ダリオ氏の発言はこれからテーパリングと利上げを進めようとしているパウエル氏らFedの出鼻をくじく内容となっている。彼は次のように述べている。
アメリカは量的緩和を再開することになると思う。
中央銀行はテーパリングを行おうとしているが、1980年以降、金利の引き締めは常に1つ前の引き締めよりも規模の小さいものとなっている。金利の天井は常に1つ前の天井より低くなり、そして金利はゼロになった。その後量的緩和を行うようになったが、量的緩和は常に1つ前の量的緩和より大きくなっている。
どんどん緩和的になっていったのがこれまでの金融政策の歴史である。
これまでアメリカの金利がどうなってきたか、もう一度確認しておこう。
これが金利の長期トレンドなのである。Fedがこのトレンドに逆らって金利を上げようとしたこともあったが、その時は常に株価の暴落によって低金利政策に戻すことを余儀なくされた。一番直近のものは、現在のパウエル議長が引き起こした2018年の世界同時株安である。
だからパウエル議長は金融引き締めに及び腰になっているが、元々経済学を学んでいないマクロ経済学の素人であるパウエル氏の意見は中央銀行内で通っておらず、インフレを懸念した他の委員に押し切られている。
金利を下方向に引っ張る引力
しかしダリオ氏によれば、どちらにしても金利は下方向に引っ張られるだろう。特に、現金給付で無理やり押し上げたとはいえ、コロナで経済が疲弊している状態では2018年のような金融引き締めはできず、これから進めようとしている緩和縮小でさえ何処まで続けられるかというところだろう。
中国恒大集団については意見を違えた筆者とダリオ氏だが、この点については完全に一致している。では、その予想は金融市場ではどのように現れてゆくだろうか? 以下は2018年末にパウエル氏の金融引き締めが世界同時株安を引き起こすまでのアメリカの長期金利のチャートである。
この時は長期金利は2.0%付近から3.2%まで上がり、その後に世界同時株安を引き起こして1.5%まで下がっている。
今回も同じことが起きるだろうが、ダリオ氏の言う通り、「金利の引き締めは1つ前の引き締めよりも規模の小さいもの」になるだろう。つまり、ここまで金利が上がる前に引き締めは限界を迎える。
実際、アメリカでは今年の3月を最後に現金給付が打ち止めとなったことで、デフレの傾向はすでに始まっている。コロナのためにアメリカ経済は現金給付なしには立ち行かない状態になっているのである。
筆者の予想では11月にテーパリングの開始を決定する時にはこの傾向はより顕著になっており、Fedはテーパリングの開始すら躊躇するのではないか。そうすればドル円や長期金利には下落圧力がかかることになる。そしてその傾向は、ダリオ氏と筆者が意見を違えた中国恒大集団の問題によって増幅されるはずである。
2018年もそうだったが、中央銀行は常に著名投資家が最初から無理だと判断することをあえてやろうとする。しかし市場は一定期間それに付き合わなければならないのである。