恒大集団倒産と中国不動産バブル崩壊で空売りすべき銘柄リスト

恒大集団の破綻危機と中国不動産バブルの崩壊懸念が金融市場で話題になっており、これまでも記事で取り上げてきた。

状況の概要は伝えているが、次に考えるべきは投資家がどうすれば良いのかということである。今回はそれについて書いてみたい。

恒大集団の倒産危機

詳細はこれまでの記事を参照してほしいが、状況はこうである。中国最大級の不動産ディベロッパーである恒大集団の倒産危機が話題になっている。負債総額は2兆元以上と言われており、これは中国のGDP102兆元のおよそ2%に相当する。

とんでもない金額の負債を積み上げたわけだが、問題はこの負債がどう処理されるかである。恒大集団は負債の山を抱えているが、資産を一切持っていないわけではない。恒大集団の2020年のアニュアルレポートによれば、2兆3,000億元の資産を持っている。

データが昨年末である上に、負債は額面の金額をきっちり請求される一方で資産は帳簿に載っている金額で売れるとは限らないから、実際には恒大集団は2兆3,000億元を持っているわけではないが、その内訳の大半は不動産であり、具体的には次のようになっている。

  • 未完成の不動産: 1兆2,579億元
  • 投資用不動産: 1,659億元
  • 売出し中の完成済み不動産: 1,485億元

合計で1兆6,000億元程度の不動産が計上されている。恒大集団はディベロッパーなので手持ちの資産には未完成の物件が多い。

恒大集団の不動産投げ売り

さて、債権者は借金を返してもらうために恒大集団にこれらの不動産を売らせることになる。中国の不動産市場には少なめに見積もってもGDPの1%分の売り圧力がかかることになる。

金融業界ではこれが中国の不動産市場だけの問題なのか、それとも金融市場の他の部分にも波及するのかということが議論されている。しかし特にアメリカやヨーロッパの投資家は「中国の不動産市場」の意味をあまり理解していないようである。

以前にも書いたが、中国人にとって不動産とは特別な資産である。中国人の不動産信仰は厚く、彼らは不動産は長期的には決して下落しないと考えており、不動産を所有することが人生の目標であるような人も少なくない。

中国人にとってメインの投資とは不動産なのであり、株式や債券ではないのである。ここが重要である。中国にとっての不動産市場とはアメリカにとっての株式市場なのである。

だから2015年に中国の株式市場が崩壊したとき、それは中国にとって大した問題ではなかった。以下は上海総合指数のチャートである。

しかし今回は中国人の資産形成の支柱である不動産市場の問題である。そしてそれはGDP1%分の売り圧力だけの問題ではない。

中国の不動産バブル

恒大集団が立ち行かなくなったのは、不動産が売れなかったからである。大手不動産ディベロッパーが倒産するほど建設した物件が売れないということは、需要が供給をかなり大幅に下回っているということである。

供給過剰であるからには今後供給は減少してゆくほかない。真っ先にダメージを受けるのは当然ながら恒大集団のような不動産会社である。

空売り投資家にとってどうかと言えば、まず恒大集団自体の株価は既に地に落ちている。

しかし長江実業や新世界発展などの他の不動産会社はまだ2021年の取引レンジを脱するほどの下落にはなっていないようである。ここでは長江実業の株価チャートを掲載しておこう。

より広範囲な影響

さて、ここからはよりマクロな視点から頭を働かせてみよう。中国の不動産会社がどうなるにしても、今の時点でも明らかなのは中国の不動産市場が供給過剰に陥っているということである。これから供給が少なくなるということは、建設のために使われる機材や資材が使われなくなるということである。

まず頭に浮かぶのはショベルなどの建設機械を作っている米国のCatapillarや日本のコマツだろう。まずはCatapillarの株価を掲載しておこう。

次はコマツである。

これらの企業も影響を受けるだろう。しかし中国銘柄として真っ先に名前の上がるこれらの企業は、意外にも売上高に占める中国の建設関連の割合はそれほど大きくなく、両者とも10%以下である。

そこで投資家としてはより直接的に影響を受ける銘柄を探す必要が出てくる。中国で建物が作られなくなればどうなるか? 建設機械の他に建設のために必要なものは何だろうか?

コモディティ市場への影響

ここで鉄鉱石と銅という名前が出てきた読者が居るならば、十分にマクロな投資家だと言えるのではないか。投資アイデアとはこのように考えるのである。

鉄鉱石は世界の輸入の75%を中国が担っている。当然ながらその多くは建設に使われる。

鉄鉱石に関して個人投資家でもアクセスしやすい投資先と言えば、例えば米国ETFのVanEck Steel ETF (NYSEARCA:SLX)があるだろう。

これは鉄鉱石の採掘企業などを纏めたETFである。その輸入の75%を担う中国の不動産市場が崩壊すれば、この程度の下げでは絶対に終わらないはずである。

また、銅も中国の建設業界で使われており、中国が世界の輸入の43%を担っている。銅価格のチャートを掲載しておこう。

これらの銘柄は中国の不動産バブルとともに育ってきたと言っても過言ではない。中国の不動産バブルとともに育った銘柄は、中国の不動産バブルが崩壊すれば下落を免れないだろう。

中国の景気後退

更により大きな視点から眺めてみよう。最初に述べたように、不動産は中国人の資産形成の中核を担っている。

大雑把に言ってGDPの1%分が不動産市場で投げ売りされ、もう1%分は債権者の損失となる。Reustersによれば、恒大集団の本社には投資家が集まって「金を返せ!」と叫んでいる。

恒大集団に投資をして資金を失った投資家、そして不動産価格下落で損をする非常に多くの中国人は、資金を作るために手持ちの資産を売ったり、消費を控えたりするだろう。恒大集団の負債総額がGDP2%分ならば、その影響は合計で恐らく3%から4%には及ぶはずである。

この危機を乗り越えるためには中国政府は利下げなど何らかの緩和を行わなければならない可能性が高くなる。そうなれば人民元は下落すると考えるのが自然だろう。以下はドル元のチャート(上方向がドル高元安)である。

まだまだ恒大集団の件を織り込んでいるとは言い難い。

結論

ここまで書いたが、恐らく本命は人民元、鉄鉱石、銅だろう。しかし他の銘柄についても特に買い持ちにしている投資家は気をつけなければならない。読者も自分のポートフォリオに中国の不動産にかかわるものが含まれていないかチェックすべきである。

市場はまだほとんど動いていない。しかし他の投資家よりも早く先を考え先を予測した者が金融市場では利益を手に入れることができる。

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