ガンドラック氏: 量的緩和はデフレの原因

アメリカのインフレとその後のインフレ減速を見事予想したDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がValuetainmentのインタビューで政府の緩和政策と物価の関係について議論しているので紹介したい。

量的緩和がデフレを生む

先進国は長年量的緩和を行なってきた。コロナ後はそれに加えて政府は現金給付を行なった。日本でも10万円が給付されたが、アメリカではその3倍以上の金額が給付されている。

量的緩和政策は中央銀行が紙幣を印刷して債券などを買い上げる政策である。債券とは国や企業の借金を証券化したものであり、アメリカでは倒産リスクのある企業の債券であるジャンク債さえも中央銀行が買っている。

一般的には量的緩和は紙幣を無制限に印刷するためインフレを生むのではないかと言われている。しかしガンドラック氏の意見は逆である。彼は量的緩和の是非を聞かれ、次のように答えている。

短期的には良いことだと言えるかもしれない。だが長期的には債務には新陳代謝が必要だ。ゾンビ企業、非効率な企業を退場させる必要がある。だが、緩和のお陰でそれが起こらない。

これはデフレの一因だと言える。供給が過剰なのだから理屈が通るだろう。

市場経済では消費者の望む商品を作らない企業は淘汰される。しかしそれを政府が人為的に妨げると、消費者の望まないものを作り続けるゾンビ企業がどんどん増えることになる。

経済学では価格は需要と供給の兼ね合いで決まり、ゾンビ企業を生かすということは経済の供給(しかも不要な供給)を増やし続けるということである。供給の増加は当然ながら価格を押し下げる。つまりデフレになるのである。

デフレがインフレになる瞬間

しかし現在アメリカで懸念されているのはインフレであり、デフレではない。アメリカではコロナ禍で大量の現金給付を行なった結果、物価が上昇している。デフレが問題だったはずがいつの間にかインフレになっている。

それは何故か? 量的緩和を長年続けるとデフレと低成長が実現する。消費者の望まないものを作り続ける企業が増え続けるのだから当然である。インフレになる前に緩和は終了し、それで問題がないと人々は考える。

しかしそこにコロナショックのような衝撃が加わり深刻な景気後退に陥ると、インフレを引き起こす規模の刺激策なしには経済成長を支えられなくなる。インフレが起こると分かっていても緩和で経済を支えなければならなくなる状況に陥るのである。

ガンドラック氏は次のように続けている。

しかしこれほどの現金をばら撒いた場合、消費がデフレ圧力に打ち勝ってしまう。

この状況に陥った経済は急激なデフレと急激なインフレを行き来する非常に不安定な状態となる。緩和を止めれば急激なデフレになり、緩和をすれば急激なインフレになるからである。

まさにこれが現在のアメリカ経済の状況である。アメリカでは3回行われた現金給付が今年3月を最後に途絶えると、アメリカ経済は途端にデフレに向かい始めている。

もうアメリカには選択肢が2つしかない。緩和を続けて物価高騰を受け入れるか、緩和を止めて不況を受け入れるかである。

この状況は短期的にはコロナだが、長期的には量的緩和が作り出したものである。量的緩和によるデフレと低成長がなければ、コロナ禍も経済的にはこれほど酷くはならなかっただろうからである。

量的緩和政策のそもそもの原因

そもそも何故量的緩和政策が行われたのだろうか? 量的緩和政策とは基本的に貸し手より借り手に有利な政策である。金利を押し下げることで莫大な借金を背負っている借り手は利払い義務が軽減される。

一方で貸し手はお金を貸しても金利が得られない状況に陥る。得られないどころか、銀行にお金を預けるとむしろ手数料を取られるというのが貸し手が置かれている状況である。

ここで考えてみてほしいのだが、経済における最大の借り手とは誰だろうか? 政府である。そして貸し手とは誰だろうか? 国民なのである。

つまり、量的緩和政策とは経済最大の借り手である政府が、貸し手である国民を犠牲にして自分を利する政策なのである。こうすることで政府は莫大な借金を背負っても、東京オリンピックやGO TOトラベルなどの政策で自分の支援者に金をばら撒くことが出来る。

そして奇妙なことに何も知らない大半の国民は無邪気にもそれを支持しているのである。人々が自分の置かれた状況についてどれだけ何も知らないかである。

量的緩和危機と中国恒大集団

ガンドラック氏のこのインタビューはある意味ではタイムリーである。何故ならば、非効率なビジネスを生かし続けた結果が、いま中国でGDP2%分の負債を抱えて破綻しかけている恒大集団だからである。

中国もまた消費者の望まないものを作り続ける企業を長い間野放しにしてきた。しかし報道によれば中国共産党は恒大集団を救済しない可能性が高いらしい。中国共産党傘下の環球時報は次のように主張している。

恒大集団は『大きすぎて潰せない』の原則に基づく政府による救済を期待すべきではない。

これは中国共産党がアメリカとは違う方向に舵を切ったことを意味する。不況か物価高騰か選べと言われたら、米国政府は迷わず物価高騰を選ぶだろう。

しかし少なくとも現状では中国共産党はゾンビ企業の末路を市場経済に委ねたように見える。一方で、どの企業が生き残るべきかを消費者ではなく政府が決定する量的緩和は共産主義の定義そのものである。

結論

以下の記事で説明した通り、中国政府の選択は短期的には中国の不動産バブル崩壊というかなり大規模な経済危機を引き起こす恐れがある。

しかしそれがなければ、中国も(そして日本も)いずれ現在のアメリカのような状況に陥るだろう。

中国共産党はゾンビ企業の始末を市場に委ねようとしている。この意味では中国共産党は量的緩和を推進する日本の自民党よりよほど資本主義的である。

一方で、日本を含め多くの先進国の政治家は票田にばら撒くための政府予算にしがみつくためだけに緩和政策に執着している。増税と量的緩和という社会主義政策を推し進める政党を保守と呼んではならない。彼らは左翼である。