中国の不動産バブル崩壊の危機について報じたため1日遅くなってしまったが、お待ちかねのアメリカの最新のインフレ統計である。
アメリカのインフレ減速
現在、インフレ率はアメリカで最も重要な経済統計となっている。コロナ禍にアメリカでは3回行われた現金給付が物価上昇を引き起こし、金融市場では金属や農作物などのコモディティ価格が高騰したのが今年の前半までの話である。
しかし現金給付は3月を最後に打ち止めとなっており、その後は少なくとも短期的なデフレ相場になるということをここでは繰り返し言っている。そこで今回のインフレ統計についても発表前に次のように述べておいた。
雇用統計以上に重要なのはもうすぐ発表されるCPI(消費者物価指数)、つまりインフレ率のデータである。インフレがどうなっているのかということが当然ながら失業率や労働者の総数よりも優先する。
短期デフレシナリオに従うならば、このインフレ率の数字もデフレ的になっているはずである。
それで9月14日に発表された8月分のCPI(消費者物価指数)がどうなったかと言えば、アメリカのインフレは前月比年率(以下同じ)で3.3%の上昇となり、減速していた7月分の5.8%から更に減速した。
チャートで見ると次のようになる。
3月に最後の現金給付が行われ、その後インフレは数ヶ月加速した後、6月にピークを付けてその後減速している。今年春の段階で「インフレは7月にピークになる」と予想していたジェフリー・ガンドラック氏は、1月ずれているものの大したものである。
DoubleLineにはインフレを予測するためのモデルがあり、直近数ヶ月の予想をするためにかなり役立っている。
そしてそのモデルによればインフレ率は今後数ヶ月上昇を続けるだろう。7月にピークとなるかもしれないが、もしそこからも上昇を続けるようなことがあれば、経済にとって深刻な懸念となるだろう。
さて、全体の数字は分かったが、今後アメリカのインフレ率がどうなるかを占うためにはCPIの内訳を見てゆかなければならない。
重しとなる中古車価格の下落
全体の数字を押し下げたのはやはり中古車で、全体がインフレとなる中、-17.0%のマイナス成長となった。
中古車は春頃まで全体の数字を最も押し上げていた要素である。コロナで東南アジアの工場が動かなくなったために半導体が不足しており、それが自動車の供給不足に繋がっていた。それで中古車価格がCPIの数字を短期的に押し上げていたのだが、今度はその中古車価格がリバウンドで下落していることがCPIにとって重しになっている。チャートは次のようになっている。
ちなみに中古車価格は今でもコロナ前より30%以上高い水準に留まっており、半導体不足が落ち着けば更に下落してCPIを押し下げる可能性が高い。
住宅関連の指数も減速
中古車価格は短期要因だが、経済学者ラリー・サマーズ氏らが指摘するように現在のアメリカのインフレには長期要因もある。
その1つがコロナ後に高騰している住宅価格で、CPIにもその影響が表れるはずである。
しかし今回のCPI統計では住宅関連の要素である「持ち家のみなし家賃」(持ち家に家賃を払ったものを仮定して産出する数値)も3.1%の上昇で、前回の3.5%から減速となった。
これはやや意外な結果である。ガンドラック氏、サマーズ氏がともに指摘しているように、CPIの住宅関連の要素は年率10%以上の勢いで高騰している実際の住宅価格を全く反映していない。
これをCPIに反映されるまでの遅れだと判断するならば、この要素はここでこのまま減速してゆくことはないはずなのだが、今回の発表ではこの数値までもデフレ的になっているということを指摘しておきたい。
結論
ということでデフレ相場継続である。そして前回述べたことだが、ここに中国の不動産バブルがどうなるかということが関わってくる。
注目の的となっている中国の不動産会社、恒大集団は現在20日が期限の債務の支払いに苦慮しているようであり、早ければ来週にもデフォルトする可能性がある。そうなれば、中国のGDPの2%を超える2兆元という負債がどうなるかという問題がある。
GDPの2%の負債を抱えて恒大集団がデフォルトした場合の中国経済への影響は、当然ながらGDPの2%を超えることになる。先ず恒大集団は保有する不動産を投げ売りして負債を返すことになるが、それは中国の不動産市場全体を大きく下落させる恐れがある。これが2兆元の内、「資産を投げ売って返済できる部分」の影響である。
そして返済できない部分に関しては当然ながらそのまま債権者の損失となる。債権者は、例えば株式など他の資産を売って損失を補填しなければならない者も出てくるだろう。
そう考えれば、恒大集団のデフォルトの影響は恐らく中国のGDPの2%を大幅に超えることになりそうである。投資家に出来るリスク回避のトレードは、やはり為替市場と債券市場だろう。
以下の記事に書いたドル円と米国債のトレードは、もし中国の不動産バブルが完全に崩壊した時にも投資家を守ってくれるはずである。雲行きが怪しくなってきた。