表舞台になかなか姿を表さなくなったジョージ・ソロス氏が珍しく投資について語っている。Wall Street Journalなどが伝えている。
ソロス氏の中国投資批判
ソロス氏が今回テーマに挙げているのは中国投資である。もっともソロス氏が声明を発表したきっかけは、世界最大の資産運用会社BlackRockが中国に投資できる金融商品を発表したことだった。ソロス氏がこれに噛み付いたのである。彼は次のように述べている。
今中国に何十億ドルもの資金を流し込むのは悲劇的な間違いだ。BlackRockの顧客は資産を失う可能性が高く、より重要なことにはアメリカと他の民主主義国家の安全保障を傷つけることになる。
中国投資は「資産を失う可能性が高い」とはっきり言っている。あまり市場の先行きに言及しなくなったソロス氏としては珍しいことである。理由については次のように述べている。
中国の不動産市場では大きな危機が醸成されている。また、習近平氏は富の再分配を計画している。これらのトレンドは外国人投資家にとって良い結末をもたらすものではない。
BlackRock社は習近平政権の発言を額面通りに受け取っているようだ。彼らは国営企業と民間企業の線引きをしていると主張しているが、それは現実にはほど遠い。
中国では最近大企業と政府との軋轢が大きくなりつつある。地元の大企業でさえ政府に逆らえないのに、外国人投資家がどうして良く扱われうるのか、ということだ。
BlackRock社の回答
これに対して批判されたBlackRock社は以下のような返答を出した。
グローバルな金融市場はすべての国の人々や会社や政府に世界中の経済成長を支える資産に対する、より良くより効率的なアクセスを提供すべきだ。
BlackRockが運用する資産の大半は老後の資金だ。米国を含め、世界中のBlackRockの顧客は老後の生活を含めた自分の資産上の目的を達成するために、中国を含めた広範な投資対象を必要としている。
ソロス氏の批判に対して直接答えたというよりは、自社の目的と役割を説明したという印象の文章である。
BlackRockはヘッジファンドとは違い、1つのシナリオに全賭けするというよりは様々な投資対象を提供して顧客が選ぶというニュアンスが大きい。投資対象の広範さを売りにしている会社としては、中国を投資対象に含めない理由はないだろう。だから中国の株式や債券がそれ単体で上がるか下がるかは一番の問題ではないのである。
中国投資にはリスクがある。しかし他の投資にもリスクがある。BlackRockが自社で投資判断をする性質の薄い会社であるならば、BlackRockにとってこれは顧客に選択肢を与えるか与えないかの問題なのである。
ソロス氏の政治的意図
ここまでならばまともな話だったのだが、ソロス氏はどうしてもBlackRockの中国投資を止めたいようで、米国議会に対して次のような注文を付けた。
米国議会は中国への資金流出を制限する権限をSEC(米国証券取引委員会)に与えるべきだ。
この辺りから話がおかしくなる。ソロス氏の政治傾向に詳しい読者ならば察しの通りだろうが、これはソロス氏の政治的な中国嫌いに起因する発言なのである。
ソロス氏は現在資金の大半を「開かれた社会」の実現のために使い、各地で移民政策などリベラル派の政策を推し進めている。2016年にトランプ氏が大統領選で勝利した時にも激しく反対していた。
冒頭の発言で顧客が資金を失うことよりも「民主主義国家の安全保障のほうがより重要」と述べていたことから、政治的発言が本音なのだろう。
今回、ソロス氏はBlackRockの中国投資について次のように述べている。
以前ならば両国を近づける橋渡しになるという言い訳でこうした行いも正当化できたかもしれないが、状況は今では完全に異なっている。今では米国と中国の関係は民主主義と圧政という2つの統治システムの生死を賭けた戦いとなっている。
この発言も流石は民主主義を何より大事にするリベラル派のソロス氏なのだが、ところで投資家が自分の資金を中国に投資をしたがっている時に、ソロス氏が自分の一存で議会に手を回してそれをブロックしようとするのは民主主義なのだろうか、圧政なのだろうか?
笑ってしまうような自己矛盾なのだが、政治に夢中な人々は自分のおかしさに気付かないのである。ソロス氏も投資では一流だが、政治にのめり込むとこうなってしまう。