2020年3月に新型コロナの世界的流行で株式市場が底値を形成して以来、米国株はここまでほぼ一直線で上がってきた。
その上昇が続くかどうかはさておき、その相場の質がここから変わってくることは間違いない。想像以上の景気回復がこれからも続くという全面的な楽観相場から、追加刺激がなければ成長は続かないという現実が明らかになり、市場が追加緩和を待ち続ける催促相場へ変わってゆくだろう。
偽物の経済回復
アメリカの最新の経済統計が明らかになり、現在の景気回復が現金給付と低金利に依存していることが分かり始めている。GDPの記事で解説したのでここの読者には改めて言うことでもないだろう。
アメリカでは現金給付はトランプ政権の頃も含めて3回行われた。現金給付が行われた後は小売店売上高などの統計が明らかに跳ね上がっているが、その後減速し、次の現金給付の時に再上昇するというトレンドを繰り返している。
最後に現金給付が行われたのは今年の3月なので、今後発表される7月の統計あたりからその影響が剥がれてくる。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏はかなり前からインフレの短期的ピークを7月前後と言っていたから、彼にとってはかなり前から明らかなシナリオなのだろう。
だからもうすぐ発表される7月分のインフレ統計は投資家にとってかなり重要なものになる。ピークがぴったり7月になるかどうかは誰にも分からない。しかし恐らく7月か8月だろう。
催促相場における金融市場
それはつまり、追加緩和がなければ経済は沈むということがもうすぐ統計から明らかになるということである。そして市場は楽観相場から追加緩和の催促相場へ進んでゆく。
催促相場において株価が下落するかどうかは追加緩和のタイミング次第である。市場が不満を言い始めるより前に現金給付などの追加緩和を提供すれば株価は上がり続けるだろうし、追加緩和までに時間がかかり過ぎればしびれを切らした株式市場は下落を始めるだろう。
しかしここで注目したいのはドル円と金利の動きである。例えば2016年11月にトランプ前大統領が当選して始まったトランプ相場におけるドル円の動きは次のようになっている。
2016年末にトランプ氏が当選し、大規模なインフラ投資が経済成長とインフレをもたらすという見方が市場を支配すると、ドル円は一気に104円から118円まで急騰した。
しかしその急騰は最初だけのものだった。経済成長は緩和なしには続かないということに次第に市場が気付き始めるからである。その後ドル円はあまり芳しくない動きをし、2018年の最初に株式市場が急落すると下落していった。
一方で長期金利の動きは違っている。2016年末の急騰の後、2018年にもう一度急騰し、その後下落となっている。
この2つのチャートの動きの違いはインフレへの反応の違いである。元々強くない経済を無理矢理持ち上げようとすると経済成長率よりもインフレ率が上がってゆく。催促相場ではそれが織り込まれる。そしてインフレ上昇は長期金利にとっては上昇要因だが、ドル円にとってはドル安要因になるので下落要素なのである。
結論
2021年に相場が催促相場に入るにあたり、恐らくはドル円の動きも同じようになってゆくだろう。
ドル円の下落はトランプ相場の場合も本格的には株式市場の下落を待たなければならなかったので、それがすぐに起こるかどうかは分からない。しかしもし起こらなかったとしても、トランプ相場の例を考えればドル円はそれほど上方向には行かず、110円から115円の間で留まるのではないか。そして最後には恐らく100円に向けて下落してゆくのである。
いずれにしても7月と8月のインフレ統計が公開されなければ話は始まらない。しかし市場は明らかに、短期の好景気要因がこれから剥がれてゆくということを忘れすぎである。賢明な投資家はもう一度それを認識しておきたいところだろう。