ジム・ロジャーズ氏: 株価急落のあと緩和再開へ

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタムファンドを立ち上げたジム・ロジャーズ氏がRTのインタビューでコロナ後の景気回復と株式市場について語っている。

「景気回復」

ロジャーズ氏は現在の「景気回復」について尋ねられ、次のように皮肉たっぷりに答えている。

去年に比べて状況は改善している。だが(比較対象となっている)去年にはすべてが閉まっていた。わたしが住んでいるシンガポールでは空港が閉鎖された。だから今、週に5つでも10つでもフライトがあれば勿論(去年より)改善しているだろう。

実体経済がいまだ制限されているにもかかわらず数字の上ではかなりの景気回復となっていることへの皮肉だろう。

勿論、それは政府による量的緩和や現金給付などの刺激策によって達成された景気回復である。ロジャーズ氏はこう続ける。

だが問題はそれがいつまで続くかということだ。

大量の資金が世界経済に注入された。アメリカや日本で紙幣印刷が行われた。そして今年か来年には終わりが来るだろう。

ロジャーズ氏は緩和に終わりが来ると言っている。何故終わりが来るのか?

多くの投資家が懸念しているのは物価高騰である。だがインフレについては優れた論者でも意見が分かれている。経済学者のラリー・サマーズ氏はインフレは長期的だと言う一方で、債券投資家のスコット・マイナード氏はインフレは短期的だと言う。

ロジャーズ氏はインフレはどうなるかと聞かれ、次のように答えて質問者を苦笑させている。

こうした紙幣印刷は既に物価を上昇させている。店に行ってみるといい。(物価上昇について知らないなら)あなたは買い物をしないのだろう。多分あなたの執事があなたのために買い物をしてくれるのだろう。だから知らないかもしれないが、物価は上がっている。

ロジャーズ氏は早くからインフレシナリオに賭け、貴金属や農作物に投資をして利益を得た投資家の1人である。

そしてこの答え方から推測するとインフレシナリオは継続だと考えているようだ。

インフレと株式市場

インフレが金融市場にもたらす帰結は何だろうか? ロジャーズ氏は次のように説明する。

次の危機では多くの人が経済から追い出されることになるだろう。資金が注入され、価格が上昇し、何処かのタイミングで対応を強いられる。そして市場が調整することになる。

そうすれば政府はより多くの紙幣を印刷しなければならなくなるだろう。こうして状況は更に悪くなってゆく。

実際、アメリカの中央銀行は今月、金融引き締めを匂わせて市場を少し動揺させた。

金融引き締めから株価急落、そして緩和再開という流れはどうやら著名投資家の間では既定シナリオになっているようである。マイナード氏は3月に既に同じことを言っていた。元クォンタムファンドのスタンレー・ドラッケンミラー氏も最近同じことを言っている。

天災の2020年、人災の2021年

そうなれば世界経済はパンデミックという天災のあとに紙幣印刷の当然の帰結という人災を経験することになるだろう。今は何とか価値を保っているドルも、その時には恐らく下落を開始するだろうからである。ドルについては以下の記事に纏めてあるので参考にしてもらいたい。

長い低金利政策の年月を経て、ついにドルが暴落しようとしている。

長期的なトレンドとして、紙幣印刷をすれば貨幣の価値が暴落するという明らかなことが何故多くの人には分からなかったのだろうか。何故政府はそういう手段を取ってしまったのだろうか。ロジャーズ氏は次のように述べる。

政府を信頼することが最良の手段だとは思えない。

ロジャーズ氏にしてみれば破滅が明らかな手段に頼った政治家が信じられないのだろう。そしてそういった傾向は経済政策だけに留まらないとロジャーズ氏は言う。

わたしはアメリカ人だからアメリカの例で言おう。アメリカの郵便局を見てみればいい。アメリカの鉄道を見てみればいい。それらは政府が所有している。そしてサービスはどうしようもない。どうしようもなく使い物にならない。

少なくともアメリカの経験で言えば、政府により多く運営させれば、状況はより悪くなる。

ロシア政府の影響下にあるRTでこういうことを言うあたりがロジャーズ氏である。

こうした政府に対する不信感は優れた投資家に共通している。ジェフリー・ガンドラック氏もコロナ禍の初期に既に現金給付を批判していた。

レイ・ダリオ氏はもっと言葉を選んでいたが同じことを言っていた。

だがいずれにしても紙幣印刷は起こった。そして結果ももうすぐ来るだろう。

こういう状況で人々には何が出来るだろうか? ロジャーズ氏はマクロ投資家らしい冗談で答えている。

いますぐ家に帰って米を買うんだ。そしてクローゼットに入れておけ。