2015年4-6月期の米国実質GDP速報値は前年同期比2.32%となり、前期の2.88%から減速した。経済成長が全体的に弱まっているが、絶対値として見れば2%以上であり、Fed(連邦準備制度)が利上げをする口実としては十分であることも確かである。
明らかに弱いのは投資と輸出だが、驚くべきことに輸入まで減速している。個人消費も弱まっており、輸入とともに内需の弱さを示していると言える。内訳を見よう。
遂に弱まり始めた個人消費
個人消費は前期の3.32%に対し、やや弱まって3.10%の成長となった。個人消費で顕著に落ち込んでいるのは耐久財であり、サービスと非耐久財の落ち込みは比較的軽微である。
これは最近の株式市場でNASDAQが相対的に好調であることと一致する。Netflix (NASDAQ:NFLX、Google Finance)の株価が今年2倍になったように、シリコンバレーに代表されるテクノロジー産業は変わらず好調なのである。
一方で、ガソリン安が家計の負担を軽減する効果が見えてこないが、これは幾つかの可能性が考えられる。
先ずは、ガソリン安で浮いたお金を貯蓄や負債の返済などに回している可能性である。アメリカ人はクレジットカードの支払いを先延ばしにする傾向があり、浮いたお金の一部は常にその支払いに消えてゆく。
もう一つは、家賃の上昇がガソリン安の効果を打ち消している可能性であり、個人的にはこちらを支持している。アメリカの住宅価格は年率で5%ほど上昇しており、家賃の上昇が家計に与える影響は大きいはずである。ただ、この押し下げ効果は利上げによって住宅価格が下落すれば軽減される可能性がある。
固定投資の減速は想定内
固定投資は前期の4.77%から大きく減速し、3.58%の成長となった。内訳のなかで唯一成長が加速しているのが知的財産であり、ここでもテクノロジーの優位を見て取ることができる。
固定投資に関しては原油安によってエネルギー関連企業の設備投資が抑えられている面が大きく、投資家としても想定内と言える。
輸出入はともに減速
最後に輸出入である。成長率は、輸出が前期の2.59%に対し1.53%、輸入が6.46%に対し4.94%となった。
驚くべきことに輸入が減速している。ドル高になれば輸入物価は下がるのであり、金額で見て減速していても数量で見ればそれほどでもないのかもしれないが、それでも強い経済を指し示す結果とは言いがたい。
輸出に関しては想定通りであり、同期間における輸出企業の決算も散々であった。どの国経済もまともに成長していない現在の状況では、米国だけが世界経済を牽引することは不可能であり、このままでは米国の景気が落ち込むのも時間の問題だろう。
Fedは今回の結果に安堵か
今回のGDPはアメリカ経済の減速を示すものだが、一方でFedが利上げの口実とするためには十分な強さである。ただ、このまま行くと7-9月期が強い結果になるかどうかは不透明であり、Fedがどうしても利上げをしたいと考えていれば、12月まで待たずに利上げをすることになるだろう。
Fedの目的は日本とユーロ圏が量的緩和をしている間に金融引き締めに向かうことであり、彼らの目線は実需ではなく金融市場にある。彼らは利上げが金融市場を暴落させないか警戒しているのだが、もう手遅れであることは以下の記事に書いた通りである。
いずれにせよ、GDPの強さは金融市場に利上げを納得させるために必要であり、実需が本当に強いかどうかは、金融市場が崩壊するかどうかに比べれば些細な問題である。イエレン議長は今回の結果に安堵していることだろう。
結論
アメリカ経済は現在複数のトレンドによって動いている。ドル高は輸出を弱めており、輸出企業は悲鳴を上げている。原油安による家計への経済効果はあまり出ていない。これまでの金融緩和によって不動産市場は好調であり、家賃上昇が家計を圧迫している。
Fedは近いうちに利上げを行いたいだろうが、その次の利上げは大幅に遅れる可能性があると見ている。世界経済の停滞は明らかであり、利上げの後も金利は比較的定位に抑えられるだろう。
そうなれば世界的な量的緩和相場は延長され、バブルの崩壊は後に延びる可能性が高い。ユーロ圏の資産株にはまだ上昇余地がある。
経済が弱まれば市場が歓喜する奇妙な状況である。しかしこのような状態がいつまでも続くことはない。投資家はその時に備えておく必要があるのである。