米国の中央銀行であるFed(連邦準備制度)は4月27日から28日まで金融政策決定会合であるFOMC会合を行い、政策金利と量的緩和政策の維持を決定した。
そこまでは市場の予想通りである。この会合で何か政策が変更されるとは思われていなかった。しかし問題なのは今後の金融政策についてパウエル議長がどう思っているかである。
インフレで高まる利上げ圧力
ここでは何度も報じている通り、コロナ禍における現金給付などの政府支出の増大により、アメリカでは物価高騰の初期症状が見られている。
リーマンショックの2倍に相当する景気後退を現金給付で無理矢理帳消しにしようとしたつけが回ってきているのである。
金融市場では投資家がいち早くそれを察知し、昨年後半から金属や穀物などのコモディティの価格高騰が続いている。
- ドラッケンミラー氏が物価高騰を予想、米国債を空売り、コモディティを爆買い
- ジム・ロジャーズ氏: 日本は買い、コモディティはほぼ全部上がる
- ガントラック氏: ドルは下落へ、コモディティは買い、ジャンク債は売り
筆者の一目置く著名投資家たちが一様にコモディティだと言っている。政府が何も考えずにお金をばら撒いた時のグローバルマクロの投資テーマはコモディティと決まっているからである。結果として例えば銅価格は底値から倍以上になった。
しかしコモディティバブルも既に道半ばである。ここまでコモディティに投資をしてきた投資家は、そろそろ降り時を考えなければならない。それを教えてくれるのが今回のパウエル議長の発言である。
パウエル議長の記者会見発言
FOMC会合でのFedの意思表示は文章で発表される声明文と口頭でパウエル議長が受け答えする記者会見に分けられる。声明文では実体経済の去年の落ち込みからの回復が表明されたぐらいであまり意味のある内容はなかったが、記者会見でははっきりとパウエル議長のインフレ軽視が確認された。
元々パウエル議長は「インフレは問題ない」と言い続けていた。以下は2月の議会証言の時の記事である。
その時から筆者はインフレは実体経済の脅威だと言い続けている。それから2ヶ月が経ち、物価指数にも目に見える形でそれが表れてきた。
流石にパウエル議長も学んだのではないかと思いながら筆者は今回の記者会見を待っていた。しかし彼は何も学んでいなかった。パウエル氏の発言をいくつか引用しよう。
実体経済はまだ雇用と物価の目標からは程遠い所にある。
今年の一時的なインフレの上昇は利上げを行うための条件を満たしていない。
彼は「一時的な」と言ったが、何を根拠に一時的だと言っているのか? 何故中央銀行のトップが何の根拠もないような主張を平然と述べられるのか。現在インフレ率が上がっている原因はトランプ政権時に行われた現金給付などの財政政策であり、それに近い規模の財政政策がバイデン政権でも行われることになっている。
前回の財政政策でインフレ率が上がったのなら、今回の財政政策でインフレ率は上がり続ける。子供でも分かるようなことが何故パウエル氏には分からないのか? それは金融政策が彼の専門ではないからである。パウエル氏は民間のプライベート・エクイティ・ファンドの出身であり、経済学者でもなければマクロを専門として投資をしていた金融家でもない。少なくともマクロ経済が専門だった前任のイエレン氏とは違うのである。
金融政策はいつ反転するか
だから問題はパウエル氏が正しいか間違っているかではない。パウエル氏がいつ間違いに気付くかである。2018年の株価暴落では明らかに株価暴落を引き起こすであろう金融引き締めを強行して最終的には誤りを認める結果になった。
今回は逆に金融引き締めを行わずに「インフレは問題ない」と言い続け、最終的には誤りを認めることになるだろう。
問題はそれがいつかである。少なくとも今ではないようだ。パウエル氏は量的緩和についても次のように言っている。
まだ緩和縮小について話し始める時期ではない。
彼は手遅れになってからでなければ決して話し始めないだろう。2018年にもそうだったし、今回もそうなのである。
だからコモディティに投資している投資家はまだまだコモディティに賭けていられる。彼が過ちに気付き始めたら、利益確定を考えた方が良いだろう。しかしそのタイミングはまだである。
今回の記者会見で個人的に一番面白かったのは次のコメントである。
労働市場が弱いままなのに継続的な物価上昇が起こるというのはありそうにないように思える。
お分かりだろうか。筆者が何年も前から間違っていると言い続け、イエレン元議長が任期中にようやく乗り越えたマクロ経済学の過去の遺物、フィリップス曲線にいまだに執着している。彼は化石なのだろうか。マクロ経済について何も知らない彼は経済学の教科書に従うしかない。しかし悲しいながら教科書は間違っているのである。