世界最大のヘッジファンド、米国株高配当銘柄の買いを倍増

2月も半ばになり機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fが公開され始めている。まずはレイ・ダリオ氏率いる世界最大のヘッジファンドBridgewaterのポジションから報じたい。

以前報じたように、2020年はダリオ氏にとって厳しい年となった。

コロナ相場の最初の下落で逃げ遅れた上にその後の上げ相場を逃したためである。

2020年はダリオ氏のキャリアでもなかなかない規模の損失となってしまったが、2021年に挽回するためのダリオ氏のポートフォリオはどうなっているだろうか。

相場を後追いするダリオ氏

先ずForm 13Fに申告されている米国株ポートフォリオ全体の金額の変化を見ていきたい。株式市場は2020年3月に底値を付けそこから上昇を続けているが、申告されている米国株ポジションの総額は次のように推移している。

  • 2020年3月: 50億ドル
  • 2020年6月: 60億ドル
  • 2020年9月: 83億ドル
  • 2020年12月: 116億ドル

底値から株が上がるにつれてどんどん増えている。これはダリオ氏らしくないポジションの取り方である。ダリオ氏自身が初心者への助言として次のように言っていた。

最悪の考え方とは、「この資産はこれまで良いパフォーマンスを上げているから、この資産はこれからも良い投資なのだ」と考えることだ。価格がこれまで上がったというのは多分、より割高になったということだ。

本来、安いものを安いときに買うのがプロの投資家である。しかしダリオ氏は今、上がった後に株を買っている。まだまだ後手に回っているダリオ氏だが、去年の損失を挽回できるだろうか。

ダリオ氏の中国投資

次にポートフォリオの内容を見てゆこう。

Form 13Fは米国株の買いポジションだけを開示するものだが、上記のポートフォリオ総額の増加は必ずしもそのまま米国企業への投資を意味するものではない。何故ならば、ダリオ氏のポートフォリオの中には新興国ETFが多く含まれているからである。

  • Vanguard新興国ETF (VWO): 7億ドル
  • iShares新興国ETF (IEMG): 3億ドル
  • iShares中国大型株ETF (FXI): 2億ドル

Vanguard新興国ETFのチャートは次のようになっている。

好調だと言えるだろう。

また、個別株ではAlibabaを4億ドル保有している。こちらも中国株である。

コロナ以後、多くのファンドマネージャーがアメリカより中国を選好している。

中でもダリオ氏は去年の5月から中国がアメリカを超えて覇権国家になると主張していた。

ダリオ氏は有言実行しているようである。今後、中国株のパフォーマンスは米国株を上回るだろうか。

ダリオ氏の米国株投資

一方で、ダリオ氏は米国株も当然買っている。中でもポジションの金額が増額されているのが意外にも高配当銘柄である。

  • Walmart: 4億ドル
  • Procter & Gamble: 4億ドル
  • Coca Cola: 2億ドル
  • McDonald’s: 2億ドル

それぞれ前回からポジションが倍以上に増額されている。

何故意外かと言えば、ダリオ氏は去年から量的緩和と現金給付によるドルの価値暴落を警告し続けており、貨幣価値が下落してインフレになれば金利が上がる可能性がある。そして金利が上がれば資金は高配当銘柄から国債へと移るため、ダリオ氏の想定するドルの価値下落シナリオと高配当銘柄は一見矛盾するからである。

実際に金利は既に上がり始めており、高配当銘柄は苦戦している。上記の銘柄で一番配当率の高いCoca Colaのチャートを掲載してみよう。

以下の米国の株価指数のチャートがコロナ前の高値を大きく上回っていることを考慮すると苦戦は明らかである。

結論

この状況でダリオ氏が高配当銘柄を買う理由は何だろうか。多くのファンドマネージャーがインフレと金利上昇を予想している。

最近報じたドラッケンミラー氏の記事だが、この記事において国債を空売りして金利上昇(国債価格の下落)に直接賭けている氏が次のように言っていたことを思い出したい。

わたしはインフレが中央銀行が考えているよりも上昇すると踏んでいる。

それで長期側の国債を空売りしている。でも中央銀行が正気を失えばこのポジションは実らないかもしれない。だからコモディティを大量に保有している。もし中央銀行が債券価格を買い支えて金利上昇を抑えれば、コモディティのポジションが利益を出してくれるだろう。

重要なのは「中央銀行が正気を失えばこのポジションは実らないかもしれない」という箇所である。つまり、ダリオ氏は中央銀行が金利を無理矢理押さえ込み、それが高配当銘柄にプラスになるシナリオを見ているのではないか。

アメリカの金利は今後どうなるだろうか。現状では金利はじわじわ上がっている。金利が上がりすぎると株式市場全体にも重くのしかかってくることは留意しておきたい。