元ECB総裁ドラギ氏、イタリア新政権樹立要請を受諾

2011年から2019年までユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)の総裁を務め、量的緩和に踏み切るなど緩和的な金融政策で市場から「スーパーマリオ」などと呼ばれた経済学者マリオ・ドラギ氏がイタリア大統領マッタレッラ氏からの組閣要請を受諾した。

イタリア政府の近況

日本ではあまり知られていなかったかもしれないが、イタリア政府は段階を踏んで機能不全に陥っていた。元々は欧州懐疑的な左派の「五つ星運動」と欧州懐疑的な右派の「同盟」が連合を組む形で政権を担っていた。最大勢力は五つ星運動だったが単独で組閣をすることは出来ず、右派ではあるが同じ欧州懐疑派の「同盟」と連立を組んだ形である。首相にはどちらの党員でもない法学者のコンテ氏が選ばれた。

しかし右派と左派の連合は上手く行かず、2019年に同盟は連立を離脱、五つ星運動は今度は左派の民主党と組んで政権担当を続けていたが、同盟よりも議席数の少ない民主党との連立もやはり立ち行かなくなったわけである。

この状況を何とかするためにドラギ氏が選ばれたということである。ドラギ氏はギリシャやスペインなどが財政的に危機に陥っていた2010年代の状況で中央銀行の舵取りをし、ドイツなどが金融緩和に反対する中でイタリアの世論が求めていた量的緩和政策を推し進めた。

つまりはどうしようもなくなった状況をどうにかするために国の有名人が選ばれたということである。

ドラギ氏は組閣できるのか?

しかしドラギ氏にとっては難しい状況となる。まず第1党の五つ星運動はドラギ氏の首相就任を支持していない。反EUの反体制的政党であり、EU内でドイツに逆らってイタリアの民意に沿う金融政策を行なったとはいえ元中央銀行総裁のドラギ氏は完全に体制側の人物であるため、当然といえば当然である。

(著作権: Presidenza della Repubblica)

一方で2019年に連立から離脱した右派の同盟は解散総選挙を望んでいる。同盟は離脱当時から選挙が行われれば自分たちの議席数が増えることになると予想しているから当然の流れとなる。

ドラギ氏の指名を一番歓迎しているのは民主党で、民主党は解散総選挙になれば民主党にも五つ星運動にも損となると主張し、五つ星運動にドラギ氏を支持するように説得しているようである。しかしそれではあまりに消極的な説得だろう。

ドラギ氏は完全に火中の栗を拾った形となる。ドラギ氏はそもそも組閣に成功するのだろうか。ガーディアン紙などは「ユーロを救ったスーパーマリオはイタリアを救えるのか?」と報じており、ドラギ氏の行く末をのんびりと見守りたい。