アメリカの消費者は5月にもお金を使っていない

新型コロナの流行が世界的な話題になってから半年ほどになるが、先進国のほとんどでは本格的なロックダウンも解除され、投資家としては経済の一番落ち込んだ4月からのリバウンドの度合いが気になるところである。経済指標も5月のものが出揃っているが、アメリカ国民はどうやら消費活動に戻っていないらしい。

5月の経済統計

アメリカ人の消費を表す経済統計の中で一番発表が早いものは小売売上高であり、以下の記事で報じている。

チャートを再び掲載するが、小売売上高は2月(コロナ前)の水準と比べて3月が-7.8%、4月が-20.8%、5月が-6.7%となり、5月の数字は3月よりも改善していた。

これを受けて、より重要でGDPの構成要素である個人消費も3月と同じ水準まで回復する可能性があると書いたが、残念ながらそうならなかったようである。実質個人消費のチャート(同じく2月の水準を100とした数値)は次のようになった。

3月が-6.4%、4月が-17.8%、5月が-11.2%となり、はっきり言えば全く戻っていない。リーマンショックの頃でも個人消費の落ち込みは-2.3%程度だったため、-10%以上の落ち込みというのが相当のものであり、この分ではリーマンショック程度の落ち込みにまで戻るだけでもかなりの時間が掛かってしまうかもしれない。

増え続ける貯蓄

この状況を別の側面から眺められるのが貯蓄(毎月の収入の内、貯蓄に使わなかった分)の数字である。以下はそのチャートだが、そのスケールが分かりやすいように2008年が入る期間で表示している。

これがアメリカ人がどれほどお金を使っていないかということを示すチャートである。2008年が霞んで見えるほどに財布の紐は閉まっている。使える場所がないのだろう。そしてコロナの先行きを考えれば、その状況は今後も続きそうである。

問題は5月になっても元の3倍の水準を上回っているということだろう。実体経済からそれだけの資金が引いているということである。

巷ではこうした資金が株式市場に入っているのではないかという話もあるが、主要な株価指数S&P 500の時価総額がおよそ26兆ドルであることを考えれば、実体経済から引いたこれらの資金が株式市場を1%押し上げることもないということが分かるだろう。これらの貯蓄は今のところ完全な死に金である。

これでおよそ4月のピークから経済がどうなったかがはっきりしてきた。まだ誰も気付いていないが、投資家が気にすべき次のピークは6月か7月になるだろう。そのピークとは、コロナ流行の「改善」のピークである。

8月以降の経済は第2波の影響を徐々に受けてゆくことになる。何度も何度も繰り返すが、まだ何も始まってすらいないのである。世界も市場も、これがどれほど長期のダウントレンドかということを時間を掛けて理解してゆくだろう。