ポンドに続いてユーロの空売りを行う。今度は対スイスフランなので、ユーロフランの空売りということになる。
ヨーロッパの景気後退
前にも書いたが、先進国のなかで新型コロナウィルスによる景気後退の影響を一番受けるのはヨーロッパだろう。
そもそもドイツなど一部の国を除きユーロ圏には2008年の金融危機から立ち直っていない国も多い。例えばイタリアのGDPはまだ当時の水準まで回復していない。
以下はギリシャのGDPだが、ギリシャは言うまでもないだろう。恐らくギリシャが当時の経済規模を取り戻すことはもう何十年もないのではないか。
スペインは辛うじて当時のピークを上回っているが、コロナショックの影響でGDPが5%から10%減少すると予想されるため、2020年の終わりには当時の水準に逆戻りしている可能性が高い。
ポルトガルも同様である。
しかもこれはECB(欧州中央銀行)の量的緩和と債務拡大の力を借りてようやくこの状態だということである。例えば完全に右肩上がりとなっているアメリカのGDPと比べるとその差は歴然だろう。
景気刺激の代償
状況は特にギリシャにとって悪いが、普通こういう状況に陥った場合にはその国は通貨下落と景気後退のジレンマに陥ることになる。景気を支えるためには借金を増やして金融緩和を行う必要があるが、そうするとその分だけ自国通貨が下落することになる。
しかしアメリカや日本、そしてヨーロッパはかなりの規模の債務を積み上げ奔放な金融緩和を行なってきたが、ドルも円もユーロもほとんど下落していない。それはレイ・ダリオ氏が説明した先進国の特権である。
特に基軸通貨として存在しているドルについてはコロナショックにおいても値下がりするどころか多くの通貨に対して上昇している。
しかしこのいわゆる先進国クラブからヨーロッパが離脱する可能性があるとすればどうだろうか。GDPが元々頭打ちしていたイタリアやギリシャは下落トレンドが決定し、頭打ちしていなかったスペインやポルトガルも頭打ちとなる。
そうなればユーロ圏のなかでまともに成長している国はドイツやフランスなど限られた国だけとなる。イタリアやギリシャなどの国はユーロに加盟していなければ現在急落している小国の通貨のようにコロナショックで通貨が真っ先に落ちてゆくような国だろうが、ユーロに加盟し自国通貨を持っていないためにそれは起こっていない。
しかしそういう国がユーロ圏のなかで徐々に増え続けている。スペインとポルトガルまでそういう事態に陥れば、それらの国を抱えるユーロという通貨は無事で済むのだろうか? 済まないのではないかというのが筆者の見解である。
ユーロ圏における格差
新型コロナによる一時的な収入減少、消費減少がロックダウン解除後の経済にも悪影響を及ぼす様子を以下の記事では説明した。
そしてこの記事では格差というもの自体がGDPにとってマイナス要因だということも説明した。富裕層は貧困層よりお金を使わないため、格差が広がれば広がるほどお金を使わない層にお金が流れてゆく。
そしてヨーロッパという地域は非常に格差の大きい地域なのである。ドイツの1人当たりGDPが41,000ユーロであるのに対して、ギリシャの1人当たりGDPは18,000ユーロに満たない。
経済が伸び悩んでいるのは日本も同じだが、恐らく新型コロナの影響はヨーロッパの方が酷くなるはずである。何故ならば一時的な収入減は資産の蓄えのない層により深刻な影響を与えるため、格差は拡大する。そして格差の拡大はそれ自体がGDPを押し下げる要因となる。
ユーロフラン空売り
そして恐らく今回の景気後退をユーロ圏が通貨価値の下落という代償を払うことなく切り抜けることは不可能だろう。そのトレンドをトレードするためにはユーロフランの空売りが適切だろうと思う。
スイスは資産が多く借金の少ない経済的にまともな国である。そしてユーロ圏の真ん中に位置する非ユーロ圏の国でもある。
よってこれまでも低迷するユーロ経済によってユーロが下落してきたことへの対処に苦労してきた。スイスにとっては自国通貨高となり、周辺諸国への輸出に悪影響を及ぼすからである。
元々はスイス中央銀行はユーロフランのレートに下限を儲けていたが、2015年にその下限が支えきれなくなりユーロフランが暴落するというスイスフランショックが発生している。
その後スイス中央銀行は為替介入を続けるも、無理に下限を決めることを諦め緩やかな下落を目指しているようである。そしてこの緩やかな下落は為替トレーダーにとって非常に快適な収入減となる可能性が高い。ユーロフランのチャートは次のようになっている。
この下落トレンドは新型コロナによって決定的なものとなるだろう。イタリア人やギリシャ人が裕福なスイス人ほどコロナショックを上手く切り抜けられないことは残念ながら明らかだからである。
このユーロフランの空売りとユーロ圏に深い関係を持っているイギリスのポンドの空売りで筆者のヨーロッパ経済減速への備えは完成したと言える。
新型コロナの影響はまだまだ始まったばかりである。今後も世界経済の動向を引き続き伝えてゆく。