ドルかポンドか?: 2015年英米マネタリーベース、GDP、失業率比較

ドルの独歩高が続いている。2月の雇用統計が力強く出たことで6月の利上げが意識され、ユーロドル、ドル円、ポンドドルはすべてドル高となっている。

強い経済、今年中の利上げと、ドルの上昇基調は疑うべくもないが、ドル高が輸出を傷つけかねない水準が近いことも確かである。しかし、主要各国はどの国も金融緩和に偏っており、とりあえずはどれかの通貨を選んで保有しなければならない投資家にとっては、ドル以外の通貨を選びにくい状況にある。

ここで英ポンドを考えたい。金融市場では米国の影に隠れて忘れられがちだが、英国も経済の回復は力強く、利上げを控え、上昇してよい通貨のはずである。最近はドルに対して大きな下落となっているが、ポンドは本当に上がらないのだろうか? 先ずはマネタリーベースから比較したい。

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上記はポンドドルと英米マネタリーベース比率(1ポンドあたりドル発行額)のグラフである。サブプライム・ローン危機で発行額を大幅に増やしたのはイギリスのほうで、その後も比率は10前後で推移していることから、ポンドドルも1.55を中心とするレンジに収まっている。

これを見れば、2013年中盤からのポンド上昇は、イングランド銀行の利上げ観測を過大評価した行き過ぎであったことが分かる。結局、利上げは米国のほうが先になりそうであり、一時は2015年前半の利上げ観測も出ていた英中銀は、インフレ率の伸び悩みもあり、利上げは急がず、場合によっては利上げと利下げの両方を視野に入れるとも表明している。

類似する経済成長

経済はどうだろうか? 米国と英国の状態は非常に似通っている。両国ともGDPが上向いており、2014年4Qの前年同期比の成長率は米国が2.37%、英国が2.66%である。

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とりわけ個人消費が力強く、米国が2.79%、英国が2.25%となっている。

上昇基調だけではなく、一部の短期的な不調まで一致している。米国と英国はともに産油国であるため、原油価格の下落が石油会社の設備投資を抑制し、GDPを一部押し下げている。しかしこれは一時的な要因だろう。

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雇用

中央銀行が利上げを考える際の重要な指標である失業率も、米国が5.5%、英国が5.7%とほぼ同じ水準である。各国の失業率は一概に比べることができないが、両国とも金融危機後の2010年付近をピークとして、失業率は下がり続けている。

ドルかポンドか?

利上げの時期を考えれば、ドルの保有にはやはり強い説得力がある。マネタリーベースで見れば、ポンドドルは1.55辺りが適正値であるから、3月8日現在の為替レート1.50は少しだけポンド割安とは言えるが、これは利上げへの積極性の違いで相殺されるレベルだろう。米国が6月に利上げに動けばドルは更に上昇する可能性がある。

しかしながら、1点だけポンドが有利な点がある。それは通貨高が輸出企業にダメージを与えていないという点である。確かにポンドはユーロや円に比べて高くなったが、ドルに対しては2014年の半ばから下がり続けているため、通貨高が輸出企業の苦になっていない。

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一方で、米国では輸出企業の通貨高に対する不満が高まっており、レーガン政権下におけるプラザ合意のように、米国政府がいつかドル高を是正しようとする可能性は否定出来ない。確かにドル保有はいまだ魅力的だが、世界中の金融市場がドル高を前提に動いているため、これが反転したときのリスクはあまりに大きく、翻ってポンド保有によるリスクの軽減に惹かれるわけである。

結論

結論としては、今の水準から徐々にドルからポンドへの移行を開始し、マネタリーベース比率のグラフを参考にしながら、ポンドドルが1.40に近づくにつれてポンドの保有量を増やしていくのが良いかもしれない。

これは利益を得るための戦略ではない。ドルを保有した場合のほうが、パフォーマンスは良くなる可能性が高い。しかし、欧州株や日本株、原油や金など、ドル高を前提に動いてきた金融市場があまりに多く、ドル高反転のリスクはあまりに高いのである。測れないほどのリスクは、どれほど魅力的に見えても、やはり取るべきではないだろう。