ガントラック氏: ビットコイン相場が株価の動向を予測する

再び著名債券投資家ジェフリー・ガントラック氏の相場観である。昨年以来筆者の分析とガントラック氏の分析は考え方が一致することが多いが、CNBCのインタビュー(原文英語)でガントラック氏がまた筆者の数日前の記事と同じ観点で相場観を説明している。

ビットコインと米国株

筆者はユーロドルや金相場、原油価格について株式市場との関係を説明したが、ガントラック氏が目をつけたのはビットコイン相場である。ガントラック氏はビットコイン価格と株式市場の連動性について次のように語っている。

米国株は昨年の9月から一直線に上昇しているが、この上げ相場にはビットコイン相場が象徴的に先行している。当時4,500ドル程度だったビットコインの価格は20,000ドル辺りまで高騰した。

その後ビットコインは12月の天井から暴落した。そのボラティリティ(訳注:価格の振れ幅)の急上昇は2月の株式市場の混乱に先行したかのようだ。そして株式市場が底値を探っていた時に、ビットコインは先行して上昇を始めた。そうすると株式市場も底を打った。

とても奇妙ではあるが、ビットコイン相場は金融市場のムードを表す指標のように機能している。

実際のチャートはどうなっているだろうか。先ずは米国株のチャートを9月から見てみよう。

次はビットコインのチャートである。

ガントラック氏はこの2つのチャートが連動していると語っており、特にビットコイン価格のボラティリティの高まりは米国株急落の兆候だったと主張している。彼は次のように続けている。

ビットコイン価格が最近徐々に落ち着きを見せてきており、10,000ドル近辺に底を見つけたような動きとなっている。奇妙なことに、わたしはビットコインのような投機的な資産における投資家のセンチメントを将来を占う指標として使っている。だからもし株式市場が再び荒れるとすれば、ビットコインの下落が先に起こるのではないかと思う。

面白いコメントである。つまり、ビットコインのチャートが2月に入って比較的穏やかだから、株式市場は落ち着きを取り戻すのではないかという予想なのだろう。

ビットコイン連動の意味

ガントラック氏の理屈を順を追って検証してみよう。

先ず、米国株の下落が始まったのが2月であるのに対してビットコインの下落が昨年末から始まっている件については、個人的にはビットコインが米国株に先行したとは思わない。

ビットコインの天井は明らかにCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)とCBOE(シカゴオプション取引所)が12月半ばにビットコイン先物を上昇させたというビットコイン特有の事情が原因であり、それは米国株や他の相場に影響を及ぼすものではない。単に先物の上場によって機関投資家の資金が流入すると予測した投資家が上場前にビットコインを買い上がり、上場日と同時に材料出尽くしとなって「期待で買って事実で売る」典型的な相場になっただけのことである。これは他の市場には関係がない。

しかし、ビットコインも含めてあらゆる投機的相場が全体の資金の流れと連動していることは事実である。そして、その連動はビットコインだけではなく、米国株とドル相場、原油価格、金価格など、ほとんどすべての相場において見られる状況になっている。本来、金利や経済における需要と供給などの異なった経済のファンダメンタルズに基づいて別々に動くべき相場が、すべて連動して単一的な動きとなっていることを以下の記事では指摘してある。

この記事で象徴的だったのは、本来ドルの実質金利に反応して動くべき金相場が、年末からその連動性を失い、米国株などのリスク資産と連動するようになったことである。以下のチャートは金相場と実質金利だが、途中まで綺麗な菱形の反相関となっていたものが、年末からその形が崩れる動きとなっている。

そして金相場が新たに何に連動するようになったかと言えば、株式市場なのである。

結論

ビットコインが米国株の動きを占う先行指標になるかどうかは別として、ビットコインのような投機的資産でさえ他の市場とある程度の相関を見せていることは興味深いことである。

そしてその本質は、市場の全てが実体経済のファンダメンタルズではなく、アメリカの金融引き締め政策によって市場全体から資金が引き上げられるのかどうかという、資金の流れに基づいた相場になっているということである。すべての市場がその一つのことに連動しているために、このような動きになっているのである。金相場については上に紹介したが、ドルや原油などその他の市場がどう連動しているかについては前回の記事を参考にしてほしい。現在の市場がどのような動き方になっているのかをより理解出来るだろう。

さて、その連動が続くのであれば、全体の資金の流れこそがすべての相場の動向を予想する鍵となる。そして世界の資金の流れがどうなるかと言えば、世界一の経済大国アメリカはバランスシート縮小という量的引き締め政策によって市場から資金を引き揚げようとしているのである。

Fed(連邦準備制度)によるマネタリーベース縮小は段階を踏んで行われており、月ごとの資金引き揚げ総額は徐々に増加されることになっている。そして最終的には量的緩和とほぼ同じ速度で量的緩和を逆流させることになる予定である。ガントラック氏はこのことについてもコメントしている。

量的引き締めは徐々にその効果を発揮するだろう。今はまだ少額の引き締めしかしていないが、状況が進むにつれて月に500億ドルものバランスシート縮小になる。これと一直線的な利上げが合わされば、多くの人々が予想しているよりも早くアメリカ経済は景気後退に陥ることになるだろう。

アメリカのマネタリーベースは量的緩和によって急激に拡大され、そして今同じペースで急激に縮小されようとしている。アメリカのマネタリーベースはリーマン・ショック以来、以下のように拡大された。

2008年以降の株高に貢献したマネタリーベースの拡大は、逆戻りになったとしても金融市場には何の問題もないのだろうか? しかし市場は資金の流れに連動しようとしており、そして資金は引き揚げられている。

投資家はどう動くべきだろうか? 筆者は引き続きジャンク債を空売りするだけである。