2016年11月からのトランプ相場を的確に当て続けている著名ファンドマネージャーのジェフリー・ガントラック氏が米国株の波乱を予想している。背景にはドルや株式市場に影響するアメリカの長期金利が上昇を再開することがあるという。
上昇を続ける米国株の行方
2016年11月からのトランプ相場では、トランプ政権の法人減税、インフラ投資を期待して金融市場では株高と金利高が同時に進んできた。経済成長率が上がれば金利が上昇するからである。
ただ、2017年に入って以来は、これまでも伝えてきた米国議会の混乱からトランプ政権の経済政策の実現が遅れるとの見方が支配的となり、特にインフラ投資政策による経済成長率の改善を期待して上昇していた長期金利は調整を始めている。
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長期金利のチャートは以下のようになっている。
金利低下はドル安を招くので、最近のドル円の不調はこの長期金利の調整が原因である。
さて、一方で、トランプ政権の経済政策の遅れが懸念されているにもかかわらず、米国株の方は上昇を続けている。以下はS&P 500のチャートである。
経済政策への懸念が株価に反映されていない理由は二つある。一つには、インフラ投資を期待する金利高とは異なり、株価上昇は主に法人減税を期待してのことであり、いわゆる「小さな政府」を求める与党共和党の同意が取れやすい法人減税は、遅れたとしても実現可能だと思われているからである。
一方で、どちらかと言えば野党民主党寄りのインフラ投資政策は、共和党の合意が取りづらいと見られ、実現性が疑われている。これが長期金利と株式市場の乖離の原因である。
そして株高のもう一つの理由は、長期金利が下がっていることである。金利高とは金融引き締めであり、株価にとってネガティブな要因となるが、それが長期金利の調整によって緩和されたことで株価が支えられているのである。
ガントラック氏の相場予想
しかし、これまで長期金利の上昇とその後の調整の両方を見事に予想してきたガントラック氏によれば、これまで続いてきた株高も2017年内には終わりを迎えるという。
これまで安定して続いてきた米国株高がどうして終わりを迎えるのか? ガントラック氏のロジックは、わたしが一ヶ月前に指摘したものと同じである。Reuters(原文英語)によれば、ガントラック氏は以下のように説明している。
われわれはボラティリティ指数(訳注:株価の変動幅を表す指数)を観察している。ボラティリティ指数を空売りする資金がこれまで大量に積み上がっている。
トランプ相場以降、米国株は安定して上昇してきた。これは価格の変動幅を表すボラティリティ指数が一貫して下落してきたことを示す。以下はボラティリティ指数のチャートである。
ボラティリティ指数はシカゴオプション取引所で取引されており、投機の対象である。ガントラック氏は多くの投資家がこの指数を空売りしてきたため、空売りポジションが積み上がっていると指摘する。
ボラティリティ指数の空売りはこれまで多くの利益を生み出してきたトレードであり、既に多くの空売り投資家で混雑している。だからこの指数の下値はもう限られていると見るべきだろう。恐らくは年末まで続かないのではないか。
つまり、ガントラック氏はボラティリティ指数においていわゆる空売りの踏み上げが近い将来に起こり、ボラティリティが上昇する、つまり米国の株式相場が荒れると言っているのである。
低ボラティリティが将来の株価暴落の火種になるという理屈は、わたしがここで5月に指摘したものであり、単に変動幅の上昇を示すはずのボラティリティの上昇が実際には下落方向へのバイアスとなる理由についても既に以下の記事で詳しく説明してある。
ただ、ガントラック氏はこのボラティリティ上昇による株価下落の引き金になるものとして、長期金利の動向を挙げている。彼の予想ではアメリカの長期金利は2017年末に向けて2.7%から2.8%のレンジまで上昇を再開するという。長期金利のチャートをもう一度掲載しておこう。
長期金利が上昇すれば、金利低迷によって辛うじて支えられていた米国株も上昇を続けられるかどうかは怪しくなる。また、金利高はドル高を意味するため、アメリカの輸出株には当然マイナスになるだろう。
では何故長期金利が上昇するのか? 金利の再上昇シナリオはいくつか考えられるが、その一つはFed(連邦準備制度)がバランスシートの縮小を議論し始めていることだろう。
Fedのバランスシートは2008年以降の量的緩和(国債の買い入れ)によって膨らんだものであり、これを縮小するということは、実質的な量的緩和の巻き戻しとなる。
こうした動きは長期金利とドルを上昇させ、米国株を下落させる要因となりうる。個人的にはFedが金融引き締めを続けられるとは思っていないが、とりあえずはFOMC会合の結果を見てから話をしようと思う。