トランプ大統領率いるアメリカがシリアに59発のミサイルを打ち込んだ。言いたいことは色々あるが、先ずは事態の概要と各国の反応を纏めておきたい。
事の始まりは数日前に遡る。極力どの勢力にも肩入れしない形で説明を進めるが、ロイターによれば、4月4日にシリア北西部でシリア軍による反政府勢力への空爆があり、その対象地域において化学兵器を使用したと見られる痕跡が見つかっている。この空爆では70人が死亡している。
アメリカのトランプ政権はこれをシリアのアサド政権によるものと断定し、7日に化学兵器使用への抑止力という名目で59発のトマホークミサイルをシリアの空軍基地に打ち込んだ。シリアの国営通信社はこれらミサイルの一部は空港の近くの村にも着弾し、アメリカによる攻撃で市民9人が死亡した(APF)としている。
各国の反応
この件に関する各国の反応だが、先ず反アサド政権を標榜していた西側諸国は、アサド政権をめぐってロシアと和解するのではないかと思われていたトランプ大統領が反アサド的な軍事行動を取ったことに安堵しているようである。
イギリス政府はアメリカによる軍事攻撃を「野蛮行為への適切な対応」(ロイター)と呼んで賛意を表明した。ドイツのガブリエル外相はアメリカの行動を「理解できるもの」とし、「国連安保理が化学兵器の野蛮な使用に対して断固たる対応を取れなかったのはほとんど耐えがたい」と主張(Reuters、原文英語)した。
中東ではサウジアラビアなどイスラム教スンニ派の諸国とイスラエルがアメリカの攻撃を歓迎、一方でシーア派のイランなどは猛反発している(AFP)。因みにシリアではスンニ派が多数派だが、アサド大統領はシーア派と見なされている。この辺りがシリア騒乱の原因でもある。
シリア政府自身は化学兵器の使用を否定、ムアレム外相は会見で、シリアはテロリストに対してさえ化学兵器を使用したことは一度もないとした上で、問題の化学兵器はトルコからテロリストらのために運び入れられたものだと主張(Sputnik)した。因みにロシアはこの件をシリア軍の空爆が反政府勢力の化学兵器製造工場に直撃した結果起こったものと主張(CNN)している。
また、アサド政権を支持するロシアは、アメリカの行動について、「でっち上げられた口実のもとに行われた国際法違反」で「主権国家に対する侵略行為」だと非難(ロイター)、そしてこのような大規模なミサイル攻撃には相当の準備が必要であり、口実となった化学兵器の使用よりも以前に計画されていたはずだと主張(Sputnik)している。
中国はこの件について距離を置いた対応を取っており、すべての当事者に軍事ではない政治的解決を目指すよう呼び掛けた(ロイター)上で、「中国は他国の内政に干渉しない。アサド大統領はシリア国民によって選ばれたのであり、われわれは彼らの選択を尊重する」(Financial Times、原文英語)と主張した。個人的には中国の対応が一番理性的であると思う。
そして最後に日本だが、安倍首相が「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないとの米国政府の決意を支持」(日経)するという内容のない支持表明を行なっている。
情報が錯綜しているが、はっきりと分かる事実は一つであり、すべての国が自分の利害によって好き勝手なことを主張しているということである。
トランプ大統領自身のコメントや相場への影響については別の記事を書くつもりである。