ガントラック氏: オバマケア代替法案が否決なら米国株急落へ

トランプ相場では珍しく米国株が急落した。特に材料などなかったが、3月21日の市場でS&P 500は久々に1%以上の下落を記録した。

3月21日の米国株下落

3月21日の動きについてはあまり語るべきことがないが、先ずチャートは以下のようになっている。

この下落そのものについては一般論を繰り返すのみであり、ブラックマンデーのレベルでなければ、一日の下げに理由を求めるのは馬鹿げているということである。

下落したということは誰かがそれだけ売ったのであり、それは凄腕のファンドマネージャーが深い読みの末に出した深遠な結論であるかもしれなければ、何処かの富豪が不動産でも買おうとふと思い立って、保有する株式を換金したのかもしれない。そうした個人の事情をどうこう詮索することに意味はない。人の売り買いを気にしている暇があれば自分で考えることである。

しかし、アメリカの政治の舞台ではもう少し言及する価値のあることが行われており、著名債券投資家のガントラック氏がそれについて説明している(Reuters、原文英語)ので、紹介しておきたい。

オバマケア代替法案

それはオバマケア代替法案である。トランプ大統領の選挙公約の一つに、オバマ前大統領が導入した国民皆保険制度であるオバマケアの廃止がある。

アメリカでは元々政府主導の保険がなく、貧困層は医療が受けられない状況にあった。アメリカでは保険がなければ救急車を呼んでも日本円換算で数十万は掛かるため、お金も保険もない貧困層は医療に関して文字通り命の危機にあるわけである。

この状況をどうにかする目的で導入されたオバマケアだが、その内容は政府主導の公的な保険ではなく、民間の保険への加入を義務化するものであった。結果としてアメリカ国内の保険の需要が急騰したため、保険料が高騰して加入者が悲鳴を上げるというお粗末な状況になっている。貧困層の味方を装いながら大企業を利するアメリカ民主党のいつもの手であり、そして投資家ならばお馴染みのマクロ経済学の需給と価格の原理である。

トランプ政権のオバマケア代替法案

さて、トランプ大統領は公約通りオバマケアの代わりとなる法案を提出し、議会を通そうとしているわけだが、これが難航しているようである。元々は3月23日に採決を行うはずだったのだが、恐らくはトランプ大統領による議員の説得が終わらなかったために延期となった。米国時間で24日になるのか、あるいはもっと遅くなるのかは今のところはっきりしていない。

ガントラック氏の指摘しているのは、この法案の動向を株式市場が気にしているということである。

しかし米国株がこれまで上昇してきたのは、先ず何よりも法人減税で上場企業の純利益が改善されること、そして二番目には規制緩和とインフラ投資であり、オバマケアは関係がないのではないか? この疑問にはガントラック氏はこう答えている。

投資家はトランプ政権の成長戦略が本当に実現可能なのかを疑い始めている。

調査によれば、世間ではオバマケアの廃止はトランプ政権の政策のなかでもっとも通りやすいものと考えられている。

だからそれが通らなければ、その他のものにも間違いなく疑念が生じることになる。

つまり、オバマケア代替法案は炭坑のカナリアだということである。炭坑に有毒ガスが発生している可能性がある場合、カナリアを持って歩けば、人間が死ぬ前にカナリアが死に至り、その危険を教えてくれる。オバマケア代替法案も同じだという理屈である。

より厳密に言うならば、オバマケア代替法案が通らない場合、法人減税に与える影響は比較的少ないが、インフラ投資が通らない可能性は示唆されることになるかもしれないというのが私見である。法人減税は共和党的だが、インフラ投資は共和党的ではないからである。

米国株急落の可能性については以下の記事でも議論しているので、そちらも参考にしてほしい。