ガントラック氏: 米国利上げは何かが壊れるまで止まらない

前回の記事で予告した通り投資初心者向けの記事を書いているが、とりあえずは先に債券投資家ガントラック氏の相場観を報じたい。

米国では3月14-15日のFOMC会合での利上げが取り沙汰されているが、この米国利上げについてガントラック氏が意見を表明している。CNBC(原文英語)やBloomberg(原文英語)などが伝えている。

トランプ相場とFed

2016年のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利して以来、市場では様々なことが変わったが、その中心にあるのは金利である。トランプ政権の経済政策が評価されたことから、インフレと経済成長が期待され、先ず長期金利が上昇した。

長期金利はドル相場やアメリカの住宅ローン金利など様々なものに影響を与えているが、影響を与えたものの一つにFed(連邦準備制度)の金融政策がある。アメリカの金融政策を司るFedはアメリカの政策金利を決めており、トランプ相場でインフレ期待が改善したとして、2016年12月にリーマンショック以来二度目の利上げを決行した。

一度目は2015年12月であるから、一年ぶりの利上げとなった。Fedは2017年内に更に3回の利上げを行おうとしており、アメリカの金利先物市場によれば、市場もそれを信じているようである。市場の織り込む年内利上げ回数は以下の通りである。数字はその回数利上げが行われる確率である。

  • 0回: 1.4%
  • 1回: 12.1%
  • 2回: 31.4%
  • 3回: 34.0%
  • 4回: 16.9%

このように、3回の利上げとなる確率が最も高いと計算されており、Fedの自己申告と一致している。

Fedは信頼を取り戻したのか?

因みに、トランプ氏が勝利するまでFedは市場にほとんど信じられていなかった。経済学者で元財務長官のラリー・サマーズ氏は、Fedは常に利上げをすると言いながら、市場はそれを信じず、しかも結局は市場のほうが正しいと証明され、Fedは利上げを撤回しなければならない状態が続いていると揶揄していた。

しかし今ではどうか? Fedの自己申告と市場の予想が一致している。ガントラック氏はこの状況を次のように言い表している。

Fedへの信任は大いに変わった。市場はいまやFedの言うことに耳を傾けており、大いに敬意を払われている。

個人的には、この表現には懐疑的である。わたしの相場観では、市場がFedに敬意を払っているのではなく、Fedが市場に敬意を払っているのである。つまり、市場で長期金利が先に上がってしまったので、Fedもそれに合わせて政策金利を上げなければならなくなっているということである。以下は長期金利のチャートである。

いずれにせよ、Fedは利上げを行おうとしている。ガントラック氏はそれを以下のように解説する。

Fedはいつもの愚直な利上げのパターンに入ったようだ。それはほとんど旧態然としている。

Fedは何かが壊れるまで利上げを続けるだろう。

ここ数十年の間、Fedは常に利上げの機会を伺ってきた。そしてひとたび市場が利上げを受け入れると、その利上げは市場が許す限り愚直に続けられた。これをガントラック氏は「いつもの愚直な利上げ」と呼んでいる。

しかし、では逆に市場が許さなくなるとはどういう状態か? それはつまり、市場で何らかの支障が生じるまでFedは利上げを行うということである。

金融危機が起こるまで利上げを続けたFed

それはまさに、2008年の金融危機におけるFedの動きと同じである。イエレン議長(当時サンフランシスコ連銀総裁)は金融危機直前の金利の水準を「緩和的」と呼んだが、危機が発生するとFedは直ちに利下げと量的緩和を余儀なくされた。以下の記事に詳しく解説している。

ガントラック氏の言う「何かが壊れる」とはそういうことである。2008年の市場ではアメリカの住宅バブルが壊れたが、今の市場では何が壊れるのか? 彼はトランプ相場で上昇を続けるアメリカの株式市場を心配しているようである。

株式市場には一定の勢いがあり、その裏にはアニマルスピリットがあるということは誰もが知っている。

だが自分の予想通り今年の半ばにでも金利の上昇が再開するのであれば、株高はその悪影響に打ち勝つことが出来ないだろう。

結果として、ガントラック氏はゴールドとインフレ連動債の買いを勧めている、ゴールドとインフレ連動債はともに実質成長率への期待が低下する時に上昇するいわゆる「安全資産」である。金価格はトランプ相場で経済成長が期待されたことから急落したが、今年に入ってからはやや回復した状態にある。

かつてジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを指揮したドラッケンミラー氏もゴールドへの再投資を表明していた。これらはトランプ政権における経済成長に懐疑的な動きである。

こうしたヘッジファンドマネージャーらの悲観的な見方に反し、米国株は上昇を続けている。既に長くなってしまったので筆を置くが、長期金利と政策金利がそれぞれ株価にどういう影響を及ぼすのかについては、今後より詳しく説明してゆきたいと思っている。