ジョージ・ソロス氏に雇われてクォンタム・ファンドを指揮し、1992年のポンド危機ではソロス氏とともにポンド空売りで莫大な利益を上げたことで知られるスタンリー・ドラッケンミラー氏が、最近のトランプ相場では師であるソロス氏を上回るパフォーマンスを見せていることが話題になっている。
好対照のソロス氏、ドラッケンミラー氏
世界でもっとも著名なヘッジファンドマネージャーであり、かつリベラルの政治活動家としても知られるソロス氏は、アメリカ大統領選挙では民主党のヒラリー・クリントン氏を支持したが、対立候補のトランプ氏が勝利するとトランプ政権の失敗を予言して空売りを行い、そして損失を出した。
一方で、かつての弟子であるドラッケンミラー氏は、トランプ氏勝利の数日後にはインタビューに答え、経済成長とインフレによる金利上昇と株高を誰よりも早く、そして正確に予想した。
そのドラッケンミラー氏の個別株ポジションが機関投資家のポジションを開示するForm 13Fにおいて公開されているので、彼がトランプ相場における米国株にどう投資したのか、順番に見てゆきたい。
ドラッケンミラー氏のポートフォリオ
公開されたドラッケンミラー氏のポジションの中で最大のものは米国の小型株指数であるRussell 2000のETFである。株高を予想するのであれば、株価指数のETFを買うのが手っ取り早いということである。ドラッケンミラー氏はこの銘柄を1.3億ドル保有している。
ちなみにRussell 2000と言えば、同じForm 13Fの開示でソロス氏が空売りしていたものでもある。以下の記事で説明している。
今回のトランプ相場では師と弟子の対比が非常に明確になっている。そして利益を上げたのは弟子の方である。
また、ドラッケンミラー氏はその他にも米国株ETFを二つ保有している。一つは銀行株などで構成される金融株ETFであり、金額は5,574万ドルである。
トランプ政権の経済政策によって経済成長とインフレが加速するとの期待から、アメリカでは長期金利が上昇しており、預金者などから集めた資金を投資して金利収入を得ている銀行などは利益拡大が予想されている。金融株はトランプ相場の目玉である。
もう一つのETFは機械、建設、国防などの分野を含んだ産業株ETFであり、金額は5,146万ドルとなっている。
比較してみれば、やはり金利上昇の恩恵を受ける金融株がもっとも上昇していることが分かる。因みに長期金利のチャートは以下のように推移している。
長期金利の水準については、大雑把にではあるが昨年11月の時点で既に解説してある。
ドラッケンミラー氏の個別株選択
さて、では次はドラッケンミラー氏のETFを除く個別株を見てゆきたい。個別株の中で一番規模の大きいものは製薬株のAbbVieで、ドラッケンミラー氏はこの株式を7,650万ドル保有している。
AbbVieは2014年にニュースとなった銘柄である。AbbVieはアイルランドのダブリンに拠点を置く同業他社Shireの買収を計画し、米国から拠点を移すことで米国の法人税から逃れようとしたが、オバマ政権の反対に遭い買収を断念した。
トランプ政権がこうした租税回避に関してオバマ政権より好意的だという証拠はない。むしろ、トランプ氏はHIVなど命に関わる病気のための薬の価格を釣り上げている製薬業界を「人殺し」だと言っており、不適切な入札によって高く釣り上げられた薬価を引き下げさせると言っている。これは当然、製薬株にはマイナスとなる。
しかし一方で、トランプ大統領は多国籍企業が海外に溜め込んだ資金をアメリカ国内に還元する時に掛かる税金を引き下げるとも主張しており、そのために製薬株を買っているファンドマネージャーは多い。
ただ、ドラッケンミラー氏が独特なのは、既にタックスヘイブンに拠点のあるAllerganなどではなく、拠点を移し損ねたAbbVieを買っていることだろう。そこには何らかの意図があるのかもしれない。いずれにしても、AbbVieの株価は現状ではまだ上がっていない。
ドラッケンミラー氏のポジションの内、他に大きなものは五つあり、その内四つは銀行株である。その内訳はBank of Americaが5,663万ドル、Citigroupが5,510万ドル、Wells Fargo & Coが5,293万ドル、PNC Financial Servicesが5,450万ドルである。
これらの銘柄と金融株ETFを合わせると、ドラッケンミラー氏の金融株への投資は大きな額となり、これが米国株に関する彼のメインのトレードであることが分かる。そしてそれは正しかったと言える。ドラッケンミラー氏はかなりの利益を手にしていることだろう。
主要な個別株の最後の一つはテキサス州の産油企業Halliburtonである。トランプ氏はエネルギー産業に対する好意的な姿勢を押し出してテキサス州の票を獲得しているため、これもトランプ銘柄と言える。
結論
ドラッケンミラー氏のポートフォリオはかなりオーソドックスなトランプ銘柄で構成されており、政権交代時に行うべきトレードとして模範的なものであったので紹介した。
ただ、彼は大統領選挙後のインタビューでは株式の買いよりも金利上昇を見据えた債券の空売り(金利上昇は債券価格の低下を意味する)の方がメインだとも語っており、米国株で儲けた金額よりも多くの利益を、債券市場では得ていることだろう。
また、最近では11月に売り払ったゴールドを価格下落後に買い直したことも表明しており、こちらも利益が出ていると思われる。
トランプ氏の勝利以来、投資が上手く行っていないソロス氏とは対照的に、ドラッケンミラー氏は絶好調である。
ソロス氏とドラッケンミラー氏の有名な逸話に、ポンド危機におけるポンド空売りの際に10億ドルのポジションを持っていたドラッケンミラー氏に対し、ソロス氏が「それでポジションと呼べるのか?」と叱責して金額を倍に増やさせたというものがある。相場観が正しい時にはそれを最大限利用しろというものであり、シュワッガー氏による投資家のインタビュー集『新マーケットの魔術師』の中で語られている逸話である。
それからもう数十年が経っているが、ドラッケンミラー氏はトランプ相場で十分な金額を投資出来ただろうか? いくら賭けるべきかというのは、投資家にとって常に課題である。
また、この二人の関係については以下の記事でも取り上げている。ソロス氏の人柄が分かるエピソードなので、そちらも参考にしてもらいたい。