ドナルド・トランプ新大統領は、2014年のロシアによるクリミア併合以来、アメリカがロシアに課してきた経済制裁をトランプ政権が解除する可能性に言及した。実現すれば投資家にとって大きな投資機会となる可能性がある。
アメリカによる対ロシア経済制裁
2014年3月にロシアがクリミアを併合して以来、アメリカおよびその同盟国(日本、EUなど)はロシアに対して経済制裁を課してきた。内容はロシアの要人の資産凍結やロシア企業の海外におけるビジネスの制限などを含むもので、これは2017年まで継続して行われている。
しかしドナルド・トランプ新大統領はアメリカ政府内の反ロシア勢力に反旗を翻しており、今回ついに対ロシア経済制裁を解除する可能性に言及した。WSJ(原文英語)のインタビューでトランプ氏は、経済制裁は「少なくとも当面続く」としながらも、以下のように述べ、経済制裁解除の可能性に言及した。
もしロシアと上手くやってゆくことがアメリカの利益になるならば、関係が上手く行っている中で誰が経済制裁など必要とするだろうか?
アメリカの大統領がこれほど親ロシア的なスタンスを取るのは異例であり、トランプ氏の思惑が実現するとすれば、金融市場にも大きな影響を及ぼすだろう。
対ロシア経済制裁の相場への影響
では、投資家はどのような市場を見るべきだろうか?
アメリカと同盟国による対ロシア経済制裁は、主にロシアの要人や企業に対して資産やビジネスなどを制限するものである。制裁対象となった企業には原油大手のRosneft (MOEX:ROSN; Google Finance)や天然ガス大手のGazprom (MOEX:GAZP; Google Finance)、銀行大手のSberbank (MOEX:SBER; Google Finance)などが含まれているが、制裁の効果はまちまちであり、国外から可能な制裁の限界を思わせるものもある。一番効いているのは、ロシアの金融業界にドル市場へのアクセスを制限したものだろう。
しかしながら、制裁が一番効果的だったのはロシアからの資金流出という点であり、産油国であるロシアにとって災難である原油安と時期的に重なったこともあり、ルーブルは大暴落した。以下はUSDRUBのチャートである。
上向きがドル高、ルーブル安となる。数年前に比べてルーブルがほとんど半分の価値まで落ち込んだことが分かる。
ルーブル安の一番の原因は明らかに原油安であり、貿易収支が悪化したことで中央銀行の外貨準備枯渇が懸念されていたことが第一の原因なのだが、しかしそれでも原油だけでロシア内の物の価格が半分になるとは考えがたい。やはり経済制裁が一役買っていたのである。
このルーブル安は輸入品の価格高騰をもたらし、ロシアにおける物価は急騰した。インフレ率は2015年には17%近くまで上がったものの、原油価格の回復とともに持ち直し、今は6%程度まで落ち着いている。ロシアの政策金利はインフレを退治するため10%まで上がっており、これは今となってはやや高すぎる数字と言え、ロシア中央銀行はインフレの数字を見ながら徐々に金利を下げようとしている。
2017年のロシア経済
今後、ロシアが利下げに動き、しかもトランプ大統領が経済制裁を解除するならば、ロシア経済はルーブル安による金融危機から息を吹き返す可能性がある。
ルーブルは資金流入による上昇圧力と利下げによる下落圧力に見舞われるが、利下げから好影響を受けるルーブル建ての資産(ロシア株など)にはいずれにせよポジティブである。長らくロシア株に強気だったジム・ロジャーズ氏は既に利益を得始めていることだろう。
一方で、リスク要因は原油の動向と、トランプ大統領がアメリカ政府内で直面する反ロシア勢力の抵抗である。アメリカ大統領選挙にロシアがハッキングで介入したと主張しているCIAとトランプ氏との対立は日々大きくなっており、今後の推移が注視されている。
インフレを退治し終わった中央銀行が利下げに動き、物価高騰に疲弊した経済が回復しようとする時に株式市場で何が起こるかは、レーガノミクスを知っている金融関係者には自明だろう。レーガノミクスは減税と公共事業(軍備拡張)で有名だが、しかしそれは利下げが始まって初めて機能したのである。
2017年はアメリカとロシア、中国の動向に目を向けるべき年になるだろう。グローバリズムが終了した後の世界の構図が決まろうとしている。