2017年は先ず世界の金融市場を俯瞰しなおすことから始めたいと思う。2016年の終盤にはトランプ相場で世界の金融市場は景気回復を織り込む形で推移した。
しかし世界経済は金利上昇という爆弾を抱えている。1980年代のレーガノミクスの頃から金利は下がり続けてきたのであり、経済成長と株高はこの金利の長期下落トレンドに支えられてきたバブルなのである。
こうした状況を踏まえた上で2017年の相場はどうなるのか? 様々な要素が複雑に絡み合う今年の相場では、一つの資産クラスについての予想はほとんど意味を持たないが、先ずは米国株と長期金利について現状分かっていることを纏めたいと思う。
米国株
ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領選挙で勝利して以来、トランプ氏の政策である減税と公共事業を好感して米国株は上昇した。年末にはやや下落したが、それでも世界最高値付近を推移していることには変わりがない。
トランプ氏が勝利した後、様々な著名投資家がトランプ相場に前向きな姿勢を示した。
世界最大のヘッジファンド、Bridgewater創業者のレイ・ダリオ氏は、トランプ政権が家計や企業のマインドを改善する可能性を指摘した。
相対的に見れば、米国株以外に魅力的なセクターが無く、債券が急落している今、米国株に資金が流れ込みやすいというダリオ氏の議論も理解できる。しかし、トランプ相場の問題は金利が上昇していることである。
ダリオ氏の議論を加味したとしても、個人的にはやはり減税と公共事業が金利上昇の悪影響をカバー出来ると想定するのは難しい。レーガノミクスの初期にも同じような実験は行われたのである。
米国株の見通しは、トランプ大統領が経済政策の詳細を発表するタイミングと、そして高金利の悪影響がGDPなどの統計に表れてくるタイミングの二つの要素に懸かっている。前者は上昇要因であり、後者は下落要因となるだろう。そして個人的には後者の影響の方が大きいと踏んでいる。
アメリカ長期金利
次に債券市場である。アメリカの長期金利、つまり10年物米国債の金利は、2.5%程度で推移している。
長期金利についてはトランプ氏が勝利した11月の記事で、トランプ政権の経済政策を考慮した長期金利の理論値は2.7%程度であると計算したが、2016年までの値動きとしては、この2.7%の壁に跳ね返された形となった。
2017年の見通しとしては、仮に金利上昇の悪影響が始めのうちは表出せず、トランプ相場が問題なく継続する場合、長期金利は理論値の2.7%と国債の大量発行によるプラスアルファ分、つまり2.7-3.0%程度で推移する可能性が高い。
しかしながら、株式が下落する時にはリスクオフが長期金利を押し下げるだろう。したがって2017年の債券相場は米国株の見通しと一緒に考える必要がある。
仮に金利が3%近くまで上昇し、しかも株価が下落していないような状況が訪れるとすれば、それは投資家にとってリスクオフに舵を切る絶好の機会となるだろう。しかしそれほど分かりやすい状況を相場は与えてくれるだろうか? しかし行き過ぎをショートするというアイデアが2017年の鍵となることは間違いない。
また、金利が上がれば株式市場が崩壊すると正しく予測したのは、他ならないトランプ新大統領である。
したがって、まだ予想するには早いが、2018年2月に任期を終えるFed(連邦準備制度)のイエレン議長の後任にトランプ大統領が任命するのはハト派の人物となる可能性がある。このシナリオを信じるならば、金利は1年単位では下落方向に向かうということになる。しかしこのシナリオが顕在化するのはまだ先であり、当分は理論値と株式市場によって左右される相場が続くだろう。