Reuters(原文英語)の伝えるところによれば、新債券王と呼ばれるDoubleLine Capitalのジェフリー・ガントラック氏が再びトランプ相場への警鐘を鳴らしている。彼によれば、トランプ相場は「勢いを失っている」とし、金利低下に賭けるポジションを開始したことを明らかにした。
魔法など存在しない
ジム・ロジャーズ氏など多くの投資家が金利の上昇を予想した中、ガントラック氏はアメリカ経済の長期の低成長トレンドを転換させられる「魔法の杖など存在しない」として、経済成長への市場の期待に対し慎重な姿勢を示していたが、今回は更に一歩踏み込んだ形となる。
彼は市場のトランプ氏に対する変わり身について以下のように苦言を呈している。
トランプ氏が大統領になれば金融市場は崩壊し世界経済は不況に陥る、と人々が主張していた時、トランプ氏にとってハードルはあまりに低かった。しかし今や彼はオズの魔法使いで、人々は高い期待を抱いている。しかし魔法など存在しない。
魔法という言葉は単に経済成長を産み出すのが魔法なのではない。元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が「長期停滞」と呼んだ、高齢化などの人口動態の変化による恒常的な需要減少トレンドを解消できる魔法について彼は疑問を呈しているのである。
長期停滞論については、トランプ氏の勝利以前には多くのヘッジファンドマネージャーらが賛意を示し、金利と経済成長は長期にわたって低位に留まると予想していた。
しかし大統領選挙後、投資家の見方は一変した。ガントラック氏はこの変わり身について疑問を呈しているのである。
為替と金利と株式市場の今後の見通し
今回、ガントラック氏はより踏み込んで相場の予想を行っている。ドル、金利、株式、金相場について彼は以下のように語っている。
ここから先は、買い手が後悔を始める相場となるだろう。ドルは今後下落する。金利は上限に達したため、今後は足踏みするだろう。株式市場も上限に達した。金相場は短期的には上昇する。
チャートを見てみよう。先ずドルだが、ドル円は以下のように推移している。115円に達しそうな勢いだが、ガントラック氏の予想が正しければ、この辺りが天井ということになる。
ドルの上昇はアメリカの長期金利が高騰したためである。アメリカの長期金利は以下のように推移している。
アメリカの株価指数S&P 500は以下のように推移している。
金利低下への賭け
上記の予想をもとに、ガントラック氏は実際に米国債とモーゲージ債(住宅ローン)の買いポジションを開始したという。債券の買いとはつまり、金利の低下に賭けているということである。金利の低下は債券価格の上昇を意味する。
ガントラック氏の言う通り金利上昇が続かないとすれば、その理由は二つある。一つは長期金利の上昇が住宅ローンや自動車ローンなどの金利上昇を通じて実体経済を阻害することであり、そのリスクが極めて高いものであることはアメリカのGDPの内訳を見ていれば容易に分かる。以下は速報値のものではあるが、第3四半期のGDPを分析したものである。
もう一つの理由は、金利上昇が株式市場における量的緩和バブルを崩壊させることである。つまり、実体経済と金融市場の両面において金利上昇は多大なリスク要因なのである。
定まらない投資家の意見
ドルや株式を含め、世界中の金融市場はアメリカの長期金利がどうなるかによって決まる。そしてその金利の推移予想については、著名投資家のなかでも意見が分かれている。
クォンタム・ファンド出身のジム・ロジャーズ氏とスタンリー・ドラッケンミラー氏が高成長、高金利、ドル高を予想する一方で、世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏は高金利を予想するものの、わたしと同じようにリスクを指摘している。
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また、興味深いのはトランプ氏に助言を与えているジョン・ポールソン氏とカール・アイカーン氏がともにアメリカの保険会社AIG (NYSE:AIG; Google Finance)に投資していることだろう。保険会社は集めた保険金を運用して金利収入を得るビジネスであるため、金利上昇は将来の収入増に繋がる。
様々な投資家が様々な意見を表明している。その心は、要するに判断するための材料が出揃っていないということである。しかし情報は徐々に出てきている。トランプ政権の経済政策については引き続き報じてゆく。