引き続き、アメリカ大統領選挙後の金融市場について著名投資家の意見を聞いてゆこう。今回はジム・ロジャーズ氏である。
ロジャーズ氏はジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げたことで知られ、ロジャーズ氏が所属していた頃のクォンタム・ファンドは凄まじいパフォーマンスを叩き出した。その後ロジャーズ氏は「引退」して自分の資産のみを運用しているが、本人は「引退」と言いながらも世界中で誰よりも多くのマーケットをリサーチしている人物でもある。
大統領選後の金融市場
さて、そのロジャーズ氏がCNNのインタビュー(原文英語)でアメリカ大統領戦後の金融市場について語っている。先ず、トランプ大統領の政策がどういうものかについて聞かれ、彼はこう答えている。
ドナルド・トランプ氏の言葉をそのまま受け取ればいい。彼は減税を行おうとしている。誰にとってもアメリカ経済全体にとっても良いことだ。そしてインフラ投資に莫大な資金をつぎ込むと言っている。何処にそのようなお金があるのかは分からないが、彼はそう言っている。
ロジャーズ氏はトランプ大統領の経済政策を一応は評価しているようである。しかしその財源については疑問視している。これまで書いてきた通り、個人的にはその財源が中央銀行によって刷られたお金、すなわち量的緩和ではないかと疑っている。以下の記事で詳しく書いた通りだが、予想というより、単純に考えて他に財源が存在しないのである。
量的緩和再開にはいくつかの障害もある(また別の機会に書くこととする)が、この記事に書いたわたしの分析には一定の理屈が通っているように思える。
しかし金融市場はそのような可能性を微塵も検討していないようである。アメリカの長期金利は大統領選挙の日に大きく下げた後、途方もなく上昇した。
この金利の上昇については、ロジャーズ氏は短期的なものではないと考えているようである。彼は次のように述べている。
金利は間違いなく上がるだろう。そこに疑問の余地はない。アメリカだけでなく、世界的に金利は上がる。
ロジャーズ氏による金相場の見通し
では、低金利に大いに恩恵を受け、高金利になれば大いに売られる金相場についてはどう考えているのか? ロジャーズ氏のゴールドに対するスタンスは変わっていない。
わたしは金を保有しているが、買い増してはいない。金価格は当分下落すると予想している。
ロジャーズ氏はこれまでにも金の短期的下落を予想してきた。そして今回のトランプ氏勝利でその予想は当たったことになる。金価格は金利の上昇に伴い大きく下落している。彼は金利の上昇を予想しているのだから、当然ながら金の下落も予想しているということになる。
従来ならば彼はそれでもゴールドは長期的にはバブルになると主張していたが、今回のインタビューではその発言はない。恐らくは彼も今後の相場の長期見通しについて考えを練り直しているのだろう。わたしも同様であり、多くの投資家も同様だろう。
ちなみに、ここでは日本時間の11月11日に、長らく保有してきたゴールドのポジションを利益確定したことを報告した。以下の記事である。
そして金価格はその次のアメリカ市場で2%以上の大幅な下落を記録することになる。急な判断だったが可能な限り迅速に記事にした。上記の記事が少しでも読者の役に立ったとすれば幸いである。
ちなみにこれは個人的に大きな方向転換であった。金投資は去年から長らく狙ってきたトレードであり、ここでも長らく話してきたトレードであり、次期大統領がトランプ氏でなければ14-15%程度の利益に留まらず、12月の利上げを経てより大きな利益を出すはずのポジションであった。
しかし、そこにトランプ大統領という不確定性が現れたことで手仕舞いを余儀なくされたのだから、来年一年分の収益機会がいきなり白紙に戻ったような気分で行った難しい判断だったのである。しかしその判断はどうしようもなく正しかった。当時の価格から金相場は大きく下落しているが、仮に上昇したとしても正しい判断であったのである。
ここで強調したいのは、それでもその判断を行うことに一切の躊躇いは無かったということである。トランプ氏の政策はまだ明らかになっていないのだから、その不確実な事象に大きく左右されるものには投資してはならない。それは投資の鉄則であり、そのために将来の投資機会が失われるとしても、その鉄則は破ってはならない。だからどうしようもなく正しい判断を粛々と、そして迅速に実行したのである。
投資には才能が必要だと常々思っているが、判断の迅速さとルールに従う鉄の意志はその中でも重要なものだと思っている。非常に難しい判断を二秒でやるということがトレーダーとしての能力なのである。最近の相場では二秒でも遅いということがある。迷っている間に資産を失ってゆくのが相場の世界である。
大統領就任後の投資戦略
ロジャーズ氏に話を戻そう。トランプ大統領の政策、特に金融政策が明らかにならなければ、投資家は投資の方向を決めることが出来ない。ロジャーズ氏の金相場に対するやや曖昧な態度もそういうことだろう。そうした中でもロジャーズ氏は従来のロシアへの投資は自信を持って継続しているようである。
トランプ氏はロシアが好きなようだし、ロシアもトランプ氏が好きなようだ。わたしはロシアを買っている。
ロジャーズ氏はトランプ政権について次のように締めくくっている。
今や次期大統領がわれわれの前に立っている。そして彼は選挙時とは違うことを言っている。だから彼が実際に何をするのか見てみよう。(中略)彼がもし選挙時の過激な発言とは違うことをし、誰にでもオープンになるのであれば、どうしたことだろう、アメリカは当分の間良い時代を享受することになる。
多くの人が同じように感じていることだろう。ロジャーズ氏が退職した後のクォンタム・ファンドで働いたドラッケンミラー氏はその中でも飛び抜けてトランプ氏当選後の世界経済に強気である。
しかしロジャーズ氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げたジョージ・ソロス氏は、トランプ氏の勝利という結果に満足ではないようである。政治的に偏った人間の悲劇だろう。ファンドマネージャーとしての彼は素晴らしい業績を残したが、政治活動家としてはそうではない。ソロス氏のような活動家の政治活動や裏工作が、結局は人々をトランプ氏支持に向かわせたのである。