2016年アメリカ大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏の当選は金融市場では驚きをもって迎えられ、結果としてマーケットは大いに荒れた。しかしそのような相場でもトランプ氏の勝利に賭け、その結果大きな利益を得た投資家たちが居る。Fortune誌（原文英語）が伝えている。
アイカーン・エンタープライズ
先ず一人目は「物言う投資家」カール・アイカーン氏である。ヘッジファンド業界きってのアクティビストとして知られ、また選挙前にはトランプ政権の財務長官候補として名前が挙がったこともあるトランプ氏の支持者である。
Fortune誌によれば、アイカーン氏はエネルギー業界や保険業界などへの投資から利益を得たという。トランプ氏はCO2排出量を制限するパリ協定からの離脱を示唆しているため、エネルギー株はトランプ氏の勝利を好感し暴騰している。
例えばアイカーン氏が保有するCVR Energy (NYSE:CVI; Google Finance)の株価は選挙前の水準から27%上昇している。
また、大統領選挙後の長期金利の大幅上昇は金利を収入とする保険会社にとって大きなプラスとなっており、アイカーン氏が28億ドルを投資するAIG (NYSE:AIG; Google Finance)にも好影響を与えている。
ポールソン・アンド・カンパニー
トランプ氏勝利で利益を得たヘッジファンドマネージャーはアイカーン氏だけではない。2008年の金融危機でサブプライムローンのデフォルトに大金を賭けて150億ドルを稼いだジョン・ポールソン氏のポートフォリオにとっても、トランプ氏の当選はプラスになっているようである。
ポールソン氏はアイカーン氏も保有していた上記のAIGを5億ドル持っているほか、タックスヘイブンに拠点を持つ製薬会社に大きな賭けをしている。ダブリンに本社を置くAllergan (NYSE:AGN; Google Finance)、Shire (NASDAQ:SHPG; Google Finance)にそれぞれ9億ドル、オランダに登記しているMylan (NASDAQ:MYL; Google Finance)に8億ドルを投資しており、これらの投資は今のところ芳しいパフォーマンスを上げていないが、トランプ氏の勝利を好感して短期的には上昇している。
アメリカにおける薬の値段の高騰に対して大統領選のもう一人の候補であったヒラリー・クリントン氏が強硬姿勢を見せていたことから、トランプ氏の勝利で安堵の買いが入っているのと、トランプ氏がタックスヘイブンに拠点を持つ会社にアメリカへの資金還流を促す税制改革を計画していることによる。この税制によってタックスヘイブンに拠点を持つ企業は資金の使い道が広がるのである。以下はShireの株価チャートである。
トランプ氏の助言者でもあるアイカーン氏とポールソン氏
ちなみにこの二人のヘッジファンドマネージャーはトランプ氏の助言者でもある。アイカーン氏はトランプ氏の個人的な友人として以前から名前が挙がっており、トランプ氏の大統領当選後も助言を惜しまないと公言している。
また、サブプライムローンの空売りで名高いポールソン氏はトランプ大統領の経済顧問チームに名を連ねている。CNBC（原文英語）がチームに属する13人の名前を挙げているが、一番の大物は明らかにポールソン氏である。
トランプ大統領の経済政策についてはマクロ経済学界の最先端を行くものとして以前報じてあるが、彼の経済の知識は明らかにこうした人脈から来るものである。特にポールソン氏はヘッジファンド業界のなかでも数少ない本物である。旧時代の経済学者や自分でファンドを立ち上げられない投資銀行屋などからしか助言を得られなかったこれまでの大統領とは異なり、バイサイドの本物から最新の情報を得られるトランプ氏は世界でもっとも経済に精通した政治家であると言える。
投資家が注目すべきなのは、そうしたトランプ氏が利上げは株価を下落させると語っていることである。トランプ氏の財政政策は国債の大量発行とインフレによって長期金利を上昇させるものであり、現状では市場もそれを織り込む動きを見せているが、トランプ大統領は本当に長期金利の上昇を許すのだろうか？
以下の記事の通り、トランプ氏の顧問の一人は利上げを歓迎している。しかし量的緩和でバブルになった株式市場が長期金利の大幅な上昇に直面すればどうなるか、トランプ氏は知っているはずなのである。
恐らくは以下の記事を読み返してみる時が来たようである。わたしはトランプ氏の経済政策を評価しているが、それでも政策による経済成長が金融市場のバブル崩壊を押し留められるとは思わない。利上げを続ければ何が起こるのか、投資家はもう一度思い出してみるべきだろう。