アメリカ利上げである。アメリカ経済の減速が始まっているにもかかわらず、イエレン議長を始めとするFed(連邦準備制度)の関係者が続々と利上げを支持するシグナルを送っており、市場関係者は実体経済に対して強すぎる金融引き締めが金融危機を引き起こすのではないかという懸念を抱えているところだろう。以前説明した通り、2008年のサブプライムローン危機もそのようにして起きたのである。
アメリカ経済は減速している。2015年には2%を超えていたGDP成長率もいまや1%に近い水準まで下がっている。
それでもイエレン議長は「雇用と物価をわれわれの目標に対して維持してゆくためには政策金利を徐々に上昇させてゆくことが妥当」とし、フィッシャー副議長に至っては「イエレン議長の発言は今年中に2度利上げする可能性に整合的」であるとした。
この他に連銀総裁らも続々と利上げを支持する発言をしているが、アメリカ経済が減速するなかでのこうした発言を金融市場はどう受け止めているのか? それを考えるためには、例によって金利先物市場を見れば良い。
金利先物市場の織り込む米国利上げ
金利先物市場では投資家らが将来の金利を予想してトレードを繰り広げており、その先物価格から市場の織り込む利上げの確率を算出することが出来る。その数字によれば、2016年のアメリカ政策金利は以下のようになると予想されている。以下の2つの確率の数字は順に、金利が現状のままである可能性、金利が0.25%上がっている可能性を意味している。
- 9月: 82% 18%
- 11月: 76.9% 22%
- 12月: 47.6% 42.9%
この数字の意味するところは、9月と11月には利上げが行われる確率が低いが、12月までの間には1度の利上げが行われている可能性がある程度あると市場が予測しているということである。ではその後はどうなっているだろうか? 続きを見てみよう。
- 9月: 82% 18%
- 11月: 76.9% 22%
- 12月: 47.6% 42.9%
- 2月: 45.7% 43.1%
- 3月: 41.6% 43.3%
- 5月: 39.8% 43.3%
その後半年間の数字であるにもかかわらず、確率の数字はあまり動いていない。これが何を意味するかと言えば、Fedが今後利上げをするとしても精々年内に一度だけであり、その後の利上げは不可能、そして利上げを一切行わない可能性も十分にあると踏んでいるということである。
市場の織り込みは妥当か?
こうした市場の織り込みはイエレン議長やフィッシャー副議長などの発言とは大幅に異なるものであるが、アメリカ経済の現状を考えれば妥当というものだろう。上記の見方にわたしも大方同意する。
Fedがあと2回の利上げを行うとすれば、それはFedが本当に金融市場について何も分かっていないか、あるいは株式市場の崩壊を意図的に起こそうとした場合だけだろう。そうなった場合にもFedは結局金融緩和に戻らなければならなくなる。リーマンショックの時にも同じことが起こったのであり、2008年当時の金利と株価の動きについては以下の記事で説明しておいた。
しかし何故アメリカ経済はこれほど弱いのか? これももう2015年の終わり、米国の経済成長率が2%と発表されていた時期からわたしが予想していた通りである。
この記事を読み返してみれば、その後のアメリカ経済の減速がわたしの予想より四半期か半年分ほど早く起こったことが読み取れるが、それでも当時、わたしの意見は市場関係者の大半が驚くほどアメリカ経済に弱気だったのである。
そして長期見通しについては当時から一切変わっていないため、正直に言えば今年はほとんど書くことがない。別の市場についても言えば、原油価格の推移についても触れたいと長らく思っているが、これも4月に書いておいた予想記事がほとんどそのまま当たっているので新たに追記すべきことがあまりない。
世界的な原油の供給や産油コストを考えた場合、上限は60ドルになるだろうと分析した。よって50ドル台になれば空売りを始めることが出来、40ドル台ではコールオプションの売り(価格が上がらなければ横ばいでも利益となるトレード)が出来る
Fedが完全に利上げを諦めるまでは、どの市場もこうした予定調和の推移が続くだろう。しかし、繰り返しになるが、利上げが行き過ぎる場合のヘッジは忘れるべきではない。中央銀行が間違えないと信じられた局面など、ここ100年ほどのなかで存在しなかったからである。